‡宝‡

□神無月の空
1ページ/2ページ

「寒いな」


白い吐息がそれを物語る。ついこの間までは残暑に悩まされていたというのに。辺りはすっかり秋色に染まり、
気付けば冬の匂いを漂わせていた。



「おぉうすぁぶぃいぃ」
「…呂律回ってないぞ」
「しくぁたないだろぉがぁ」

本気で寒がっているようだ。
思わず笑いを溢す。


「あ!お前笑っただろ!!」
「笑ってなんか…っふ!」
「こちとら必死になって耐えてんだぞ!?」
「や、本当すまない」


やっと笑いが収まって、
並んでるムジカに向かう。

『寒い』とは言ってるが、何時もの笑顔は絶やさずに。
少し日没が早くなった夜空を見上げている。


「ジークっ寒くねぇ?」

寒いに決まっているだろう…。
そう言おうと口を開きかけた。




が。
一瞬の内に自分は隣にいた筈の男の腕の中にいる。
抗議しようと掴まれた身体を引き剥がそうと試み。


圧倒的な力に太刀打ち出来なかった…。



「おーあったけぇ」


人のことなんか気にもせず、自己満足の世界に浸っている。
しかし顔色は先程より数段良くなっていた。


「なぁージーク」
「何だ、……っ!」


ほんの少し角度を変えただけで、嬉しそうな表情をした彼が近くに映る。
そして一言。



「 」



思わない発言に、
頬が染まるのが自分でも分かった。
凄く恥ずかしくて。
でも内心嬉しかったりする、
彼の言葉。



「顔真っ赤」
「…煩い///」



跡形もなく消え去る寒さ。そしてこの背中には


愛しい人の温もりだけが、そこにあった。





感想→
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ