‡宝‡

□すりおろしリンゴ
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珍しいことに、後藤が風邪を引いた。疲れが溜まってたせいで抵抗力が落ちたらしい。


有里から見舞いに行け!と言われたから、お見舞いの品であるリンゴを持って行った。


後藤の住んでるマンションまでやって来ると、前に渡された合鍵を使って中に入った。




【すりおろしリンゴ】




「おっじゃまー。」



勝手知ったる何とやらで家に上がり込んで寝室に入ると、そこにはウンウン唸ってる後藤の姿。あーあ、こりゃかなり高熱みたいだな。

側に行って額に触れると、後藤が目を覚ましてぼんやりと俺のことを見てきた。



「…達、海……?」


「おはよ、後藤。気分はどうだ?」


「…なかなかに、いいよ。」



ふっと小さく笑みを浮かべる後藤だけど、痩せ我慢してんのがバレバレだ。こんなときまで強く見せなくてもいいのに、この男は…。

とりあえず、持ってきた荷物の中から冷えピタを取り出して額に貼り付け、ベッドの側に座り込んだ。布団の中に手を突っ込んで手を握ると熱い。大きくてゴツくて、いつも俺の頭や頬や体を撫でてくる手。俺はこの手が大好きだ。



「…ごめんな、後藤。苦労かけてさ…。」


「…何を、言ってるんだ……、今更…。」


「有里がさぁ、後藤が風邪引いたのは、俺が苦労かけるからだーって言ったんだよ。」


「ハハッ…、有里ちゃんらしい、な…。」



熱で浮されながらもいつもの調子で言ってくる後藤。だけど、やっぱり辛いのか言葉が途切れ途切れで熱っぽい吐息を吐き出していた。

俺が風邪をひいたとき、後藤はリンゴを剥いてくれたりお粥を作ってくれたりしてくれたよなぁ…なんてぼんやり考えたけど、生憎俺はリンゴを剥いたりお粥を作ったりなんか出来ない。…あ、そうだ、アレなら出来るかな。



「ちょっと待ってろ。」



後藤から手を離して言うと、リンゴの入った袋を持って寝室から出ていって台所へと行った。そして、すりおろし器を見つけてリンゴを洗い、皮がついたまま擦り下ろす。包丁が握れないんだから、仕方ない。

どうにかすりおろしてしまうと器に入れて、スプーンと一緒に持って寝室に戻った。



「後藤ー、リンゴー。」


「……え…?」


「ほら、起きろって。」



サイドテーブルに器とスプーンを置いて後藤を起き上がらせ、スプーンにすりおろしたリンゴを一口分掬って口元へ差し出し、食べさせた。



「…うん、うまい…。」


「擦り下ろしただけだしー…。」


「でも、嬉しいよ…。ありがとうな…。」



本当に嬉しいらしく、後藤は笑みを浮かべて俺を見てきた。そんな顔をされると、何だか照れる。
結局、俺のすりおろしたリンゴは後藤の腹の中に収まってしまい、薬を飲むと眠りについた後藤の髪をゆっくり撫でて手を握り、冷えピタの上から口づけた。



「おやすみ、…恒生。」




END









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