dust

□新しい世界
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小さい頃から瞳が良かった。
だからかは分かんないけど他人の好意や嫌悪も瞳を見ればだいたい分かった。


でも、視力がどんなに良くても酷使すれば視力は下がる。


結果使いすぎた瞳は1、2メール先のものすら裸眼では見えなくなるほどまで数年で視力が落ちた。


視力が下がった最初の頃は目を細めた。
目つきが悪いのに、目を細めるから余計に睨んで見えるようになって。

このままでは色々良くないと弱い度の眼鏡を購入した。

見えるようにはなった。

でも、掛けすぎは視力が落ちるからと聞き、たまにしか掛けなかった。
それでも段々視力は落ちて、徐々に眼鏡の度数も上がっていった。


ここまで来たら眼鏡を掛けっぱなしでもいいのかも知れない。
でも、俺には出来ない理由が有った。

どんなに度数が自分に合っていても、長時間掛け続けていると眼球の奥が痛くなって、頭痛がするからだ。


だから、授業中とか見えないと困るとき以外は裸眼で過ごした。

でも、見えない状態は案外不便で。
人の顔も近づいて初めて気付くから対応が遅れるし、ちょっとした掲示物は人が居ると障害になる。

そして、相手が俺に対してどう思ってるかも遠目じゃ分からなくなった。

そしたら、急に全部が怖くなって、自分に自信がなくなった。





だから、俺は手術を受けて視力を上げようと決心したんだ。



最近の医療は発達して、ちょっとした手術で視力が上がるらしい。
俺はこの界隈で評判の高いクリニックに診察をお願いした。


「…技術開発クリニック?」


なんて、クリニックらしからぬ名前なんだ。
でも、ここは失敗がないと有名なのだから名前くらいは我慢しなきゃ。

まぁ、手術できるかもわからないし。
予約もかなり詰まってるかも知れない。
何せ人気だから。


中に入り受付を簡単に済ませる。

中は思ったより客と言うか、患者と言うか兎に角、人は少なかった。


「檜佐木さーん、檜佐木修兵さーん?」

「Σは、はい」


眼鏡の女性にやたら、「さん」を伸ばされながら呼ばれる。
返事を慌てて返すと、医者が居るだろう奥に案内された。



「どうも」

「初めまして。今日は宜しくお願いします」

「俺は一応担当の鵯州だ」


白衣を着た…目のやたら大きい人が簡単に自己紹介をしてくれた。


(ちょっと精神的に不安に感じるのは、俺だけなのか。)


「とりあえず、診てみるか。手術を受けれるかは診てみないとどうにも」

「やっぱり、受けられない事ってあるんですか?」

「たまにだけどな。相性の問題だな、こればっかりは」


人によっては受けても視力の上がらない人、逆に悪化する人が居るらしい。
だからそうならない為にも、調べて決めるらしい。
駄目ならこの話もなくなるのがこのクリニックの方針だとか。


そうして始まった診察。
俺には何故か酷く長い時間に感じた。


「…結果が出たぞ」

「どうなんですか、手術は受けれますか?」

「あー…」


あっ駄目なんだと理解出来た。


「やたら、繊細な作りしててな…ちょっと難しい」

「そ、うですか…」


ちょっと、否、かなりショックだった。
大袈裟かも知れないけど、自分の崩壊し始めた世界を変えるチャンスでも有ったのに…。

何だか泣きたくなった。


「残念だけど、今回は…「あれー?先生今日お休みじゃあ?」だぁ!うるせー眼鏡!」

「テメェが五月蝿ぇんだよ、鵯州」

「な!俺かよ?理不尽過ぎんだろ阿近!」


急に騒がしくなった室内。


(…ッてか先生って2人居んの?)


聞いてないって。


「あ?何だ診察中か?」


入ってきた男は紅い瞳をしたイケメンだった。

取り敢えず会釈だけでもと頭を軽く下げ、挨拶をすれば、彼は俺をジッと見た後、俺の結果が書いてあるだろう紙を見た。


「あーなるほどな」

「俺は無理だと判断したんだけどよ?」


暫く間が空いて、彼は俺にもう一度俺をジッと見つめた。
意味が分からなくて、自然を首を傾げれば、阿近と呼ばれた彼はフイっと目線を俺から離した。


「…?」

「お、い」

「Σふぁ、はい!」

「っ…視力上げてぇか?」

「は、はい!」

「…じゃあ、俺がお前の視力上げてやるよ」

「え…?」

「何だ?怖くなったか?」

「Σいえ!…ただ、駄目だって聞いたんで、その…」

「何とかなる、何せ俺だからな。手術するか?」

「は、はい…!」


泣きそうだった。
嬉しくて。

俺にはこの紅い瞳の男が神様にさえ見えていた。


「おいおい、阿近良いのか?お前患者結構抱えてただろ?」

「五月蝿ぇ、何なら他の奴らはテメェがやれ」

「理不尽!ってか医者らしからぬ発言だろ!」

「冗談だ馬鹿が、自分の担当くらい自分でやる。テメェと違って天才だからな」

「…ムカつく、鬼才野郎」

「褒めてんのか、遠回しに貶してんのかどっちだテメェ!」


それから暫くは置いてきぼりだった。

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