‡宝‡

□時計
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「………何でこんな事になってんだ」
「あははははは……」

乾いた笑いしか出てこない。
苛々している阿近さんには、ツノ三本どころでなく棘が無数に見えるような状態。
自然に笑えなんて無理無理無理絶っっっ対無理!!
でも、かちゃかちゃと手際よく時計を分解していく。
まあそれはそれは細かい歯車や螺子、他にも名前のわからない部品が、阿近さんの手によってバラされていく。
俺はただ、それを隣で見ているだけ。

「…………直りますかね?」
「…………。」
「………………阿近さん?」
「うぜぇ」
「…………ハイ」

ちょこん、と隣に控えて、その様子を見守る。
心配なわけじゃない。
阿近さんの腕は疑うべくもない。
でも。
気になるものは気になる。

「………………」
「……………………ちっ」

どうやら俺の視線が落ち着かないらしい。
余計に苛々させた。

「……あ〜…俺、ちょっと表出てます」

ぼりぼりと頭を掻いて、立ち上がる。
こんどはよっこい、なんて言わない。(年寄りじゃねえからな)
そして出入り口へ一歩踏み出した時。

「っ!?」

ぐい、と腕を引かれた。
引かれただけじゃない。
また同じ位置に引き戻された。
つまり。
そこにいろ、という阿近さんなりの自己主張。
ぽ、と胸のうちが温かくなる。
というか、その素直じゃない加減が、嬉しい。
可笑しい?
そんなことない。……はず。

「……へへ」
「きもい」

すみませんと言いながら、やはり嬉しさは拭えない。
結局、俺は時計が直るまでそこに居座った。




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