小説(3冊目)

□サンタとトナカイ
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「おや、2人共可愛らしい格好ですねぇ」
 血盟城の廊下でバッタリと出会ったコンラッドがおれ達を見てニコリと笑う。
「でしょー」
 おれの隣にいる村田は満面の笑みでおれの腕を絡め取り、ピースサインを返して見せた。



 事の起こりは数時間前。
 気持ち良く鼻歌なんか歌いながら家の風呂に浸かっていると、突然村田が服を来たままズカズカと入り込んできた。
 腕を掴まれたと思えば湯が渦を巻き始め、勝手知ったる強制スタツア。
 着いた先は眞王廟にある池で、おれと村田はプカプカと浮かんでいた。
「……あのさ村田」
「何だい渋谷?」
「こっちに来るならこっちに来るで、おれにも準備させろよ!」
 ザバッと水面を叩きながら立ち上がり村田を睨みつける。おれとは対照的にゆっくり身体を起こしながら肩を竦めていた。
「素っ裸の方が着替えに手間取んなくていいと思うんだけどなぁ」
「おれは露出狂じゃねえんだよ。巫女さん達に裸を見られるおれの立場も考えてみろ」
「まあまあ、娯楽を提供してあげると思えば」
「おれは見世物じゃねえ!」
 あんまりな言い分に思わず大声を出すと、村田はまあまあと笑いながらおれの両肩に手を載せる。
 そのまま顔が近付いてきて、耳元にそっと囁かれた。
「そ、れ、に、キスマークも残ってないみたいだから大丈夫だよ」
「なっ……バカ!」
「お帰りなさい陛下、猊下」
「うううわっ!!」
 微かに頬が熱くなったのを自覚した時、背後から少女らしき声が聞こえてきて肩がビクッと跳ねた。恐る恐る顔だけを向けると言賜巫女のウルリーケが穏やかに微笑んでいる。
 とりあえずは後ろ向きで助かった。
「やあウルリーケ」
 固まって動けないおれを後目に村田がのんびりと片手を上げて挨拶を返している。非常に憎たらしい。
「村田、そのシャツ貸せ」
「いやん、エッチ」
「エッチじゃねえ。お前は下にもう1枚着てんだからいいだろ」
「僕は渋谷と違って繊細なんだから。風邪ひいちゃう」
「ふざけんな」
 村田の身体から強引に剥ぎ取ったシャツを腰に巻く。わざとらしく村田が自分の身体を抱えて寒そうに震えているが、この際無視だ。
「お待たせ、ウルリーケ」
 見苦しいものをしまってようやく振り返る。ウルリーケは上品に口元を押さえてクスクスと笑っていた。
「陛下と猊下は本当に仲が宜しいですね」
「どこが!?」
 普段については否定しないけど。
 今のやり取りを見ていてどこがどう仲良く見えるのか。
 是非ともご教授願いたいものだ。



 まずは着替えようと屋内に向かう途中、おれ達の後ろを歩いていたウルリーケが口を開いた。
「猊下、町の仕立屋から荷物が届いています」
「あ、本当? 結構早かったんだ」
 隣を歩く村田は心当たりがあったらしく、満足げに頷いている。
「なあ村田、仕立屋って何か服でも買ったのか?」
「まあねー」
 意味ありげに笑うだけで詳しく話そうとはしない。おれを置いてきぼりにしたままウルリーケに訊ねる。
「ところで今日って、こっちでは何月何日?」
「12の月の25日です」
「ナイスタイミングだ渋谷。さっきの質問の正体、すぐに見せられるぞ」
 彼女の答えに村田は小気味好く指を鳴らした。
 益々訳が判らなかった。
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