小説(3冊目)
□飼い猫ごっこ
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「村田」
ベッドに転がったまま傍にいる村田を呼んだ。
村田は背凭れ代わりにしていたベッドから頭を離さず顔だけをこちらに向ける。
おれは肘を突いて身体を起こし、村田の頭に手を載せた。
「渋谷? 何、何なの?」
キョトンと瞬きを繰り返す村田のクセ毛をそっと撫でる。指を擦り抜けていく髪が柔らかくて気持ち良い。
「うちには犬しかいないからさ。猫も良いなぁって思ってさ」
込み上げてくる笑みを隠さずに答えてやった。
今日の昼頃に村田と出掛けたその帰り道、露店で売っていた猫の置物に目が留まった。
丸まって眠る猫の毛並みが柔らかそうで、すげぇ可愛かったんだ。
「僕は猫扱いかよ」
村田はムッとして口を尖らせる。いいじゃん、お前もしょっちゅうおれの事犬呼ばわりするんだし。
まあまあと宥めるように髪を掻き混ぜると、村田はフッと目を細めて笑う。
「いいよ、今だけは渋谷くんの猫になって差し上げましょう」
立ち上がってベッドに這い登ってきた。
「その代わり、僕が飽きるまではちゃんと構えよ」
「お前がかよ」
「だって猫だから」
座るようにおれを促がし、膝に乗って首に腕を回してくる。
「重いぞ、村田」
「今は『健』だよ」
猫に苗字なんて普通付けないだろと、理知的な瞳を向ける。
顔が近すぎて、ドキドキする。
「……『健』」
震えそうになる唇を動かして、呼んだ事のない名前を呼ぶ。
村田は……健は、嬉しそうに笑って、猫とは違う肉感的な舌でおれの唇を舐めた。
「うん、『有利』」
end