小説(3冊目)

□きみと僕との距離
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 電車が中学校の前を通過する。
 空いた席もないから出入り口付近に立っていると、窓の外に見える校庭では男女の学生達が、時折身を縮めながらラケットを振っていた。
 この寒いのによくやるねぇ。
 暖房の掛かった車内にいながら思わず身震いしてしまう。
 若干16歳だというのに気分はすっかりお年寄りだ。



 そういえば僕が中学生の時も、よく放課後部活に勤しんでいる生徒達を遠巻きに眺めていたっけ。
 塾に行くため校庭の脇を通り過ぎていると、きみが真剣な顔でボールを追いかけていた。
 未熟なきみにあちらの世界の事を悟らせる訳にはいかなかったから、僕はなるべく距離を置くように、意識を向けないようにしていた。
 それでも視界の端にはいつもきみがいた。
 無意識に惹かれていた。
 今のような関係になれるなんて想像もしていなかった頃、それでもきみと友達になりたいと願う僕がいた。



 この電車を降りればきっときみが待っている。
 10分前行動が信条のヤツだから、もしかしたら寒さで顔を真っ赤にしているかもしれない。
 想像してちょっと笑ってしまった。



 改札口を抜けると渋谷が出迎えてくれた。
 愛用の自転車を脇に立てて、頬や鼻が赤らんだ顔を白いマフラーに埋めている。
 渋谷は口元を覆うマフラーを邪魔臭げに指で引き下げて笑った。
「よお村田」
 あの頃はこんな風に笑い合えるなんて想像もしていなかった。
 僕は渋谷に向けて手を伸ばし、冷え切った頬をそっと撫でた。
「やあ渋谷、寒そうだね」



end
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