小説(3冊目)

□桃色悪夢
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 誰かに呼ばれた気がして目を開けてみる。目の前にはおれの顔を覗き込んでいる村田がいた。
「起きた?」
「ん……もう朝?」
 ボーッとした頭で身体を起こす。辺りを見回すが部屋の中は薄暗い。
 欠伸をしながら頭を掻き毟り、現在の時刻を確認しようと村田を見た。
 ……あれ?
 何故か違和感を覚えてパチクリと目を瞬く。村田は口角を上げたいつも通りの顔で小首を傾げ、強張ったおれの表情を観察している。
 ゆっくりと視線を下げてみる。するとありえない光景が目に飛び込んできた。
「ななな何で村田胸あんの!?」
 そう、村田が眞魔国で日常的に着用している黒学ランの胸の辺りには、今までなかった筈の柔らかそうな膨らみがある。
「そういう渋谷にもあるよ、ホラ」
 ふにょんと人差し指の先で胸を突付かれた。
 いやいや待て待て、おれは産まれてこの方ずっと男。胸はひたすら真っ平だった筈だ。
 一夜にしてマチョ化計画が成功していたとしてもそんな感触の物が存在する訳……。
「ななな何でおれまで胸あんの!?」
 恐る恐る自分の身体を見下ろしてみると、確かに胸の位置には膨らみがあった。しかも開襟のパジャマなので谷間が見え隠れしている。モテない暦=年齢のおれには少々目の毒だ。
 ってそうじゃなくて!
「何でおれ達女になっちゃってんの!?」
「知らないよ。僕だって気が付いた時にはもうこの状態だったんだから」
 村田はあっけらかんと肩を竦めた。こっちは悲愴感すら漂わせていると思うのに同じ状況のコイツはどこ吹く風だ。
 温度差に泣きたい気分で睨みつけながらどうしても胸に視線が向かってしまう。男の性ってヤツだろう。
 何故か今、身体は女になっているけども。
 自分と比べると何となく村田の方が胸が大きい気がする。負けた気がして微妙にへこんだ。
 だからおれ男デスカラ!
 ……駄目だ。ちょっと冷静になろう。
「えーと、この場合誰に相談すればいいんだ? 村田がアテにならないとすると……」
「酷いなぁ渋谷」
「黙ってろ。あーやっぱコンラッドかなぁ? それともヴォルフ? グウェン? ――ってそういや他のヤツらはどうなんだ?」
 目の前の事に手一杯ですっかりぽんと失念していた。男が女に早変わりというこの超常現象が何かの病気だとしたら、空気感染という可能性もある。
 おれと村田は地球産で他のヤツらは純眞魔国産という違いはあれど、同じように生活してるんだ。同じような症状に見舞われている事だって……。
 こうしちゃいられない!
「村田、皆の所に行ってみよう。もしかしたらこんな事になってるのはおれ達だけじゃないかもしれない」
「まぁ待ちなって」
 ガバッと立ち上がりかけた筈が、何故か再びベッドに逆戻りしていた。村田がクスクスと笑いながらおれの上に圧し掛かってくる。
「ちょっ、何すんだよ!」
「試してみようよ」
「何を」
「女子の身体。渋谷興味あるだろ?」
 興味……は確かにありますが、かと言って自分の身体で試したいとは思わない訳で。
「いいって! どけ!」
 腕を突っぱねて近付く村田の身体を押し返す。その時村田はおれの右手を取り自分の胸に触れさせた。
「え?」
 未知の感触に身体が硬直する。
 女の子の胸って柔らかいんだなぁ。いや相手は村田なんだけど。
 とか何とか感慨に耽る間もなく、村田は空いた手でおれの左胸を掴み円を描くように揉みしだく。
「あっ!」
 突起を押し潰す強い刺激に思わず甲高い悲鳴を上げてしまい、慌てて両手で口を押さえた。
 ヤバイ、いつもより感じてるかもしれない。
 おれの動揺なんて歯牙にも掛けず、村田の手は胸を弄りもう一方の手はパジャマの布地を滑って徐々に下りていく。
 そういえば……下はどうなっているんだろうか? 上は女だけど下もやっぱり女になっちゃってたりするんだろうか?
 だとしたらかなりショックだ。
 そりゃあご立派のモノじゃないけれど、それでも大切なおれの息子だ。なくなってたりしたら男の股間、いや沽券に関わる。
 かと言って上も下も付いてたりすると、いわゆる両性具有体とかいうヤツになってしまうのだが。
 思考がグルグル巡って抵抗出来ないでいる内に、手がズボンのウエストを潜り紐パンに指が掛けられた。
 こ、怖い!
「村田、やめ……っ!」



「しーぶーや」
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