小説(1冊目)
□触覚
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渋谷がベッドに寝転がって雑誌を読んでる。もしかしなくても野球雑誌。
僕はカーペットの上でベッドを背凭れ代わりに座っていた。視線を横に向ければ否応無しに渋谷の足が目に入る。膝下丈のハーフパンツに包まれた足は、片膝を立てているせいで腿の方まで見えてしまう。
はっきり言って目の毒だ。
何度も触れた肌の感触は今でも鮮明に思い出せる。添えた手を動かせばどんな風に滑るのか感覚で知ってる。
何度肌を重ねても飽きない。それどころかもっと貪欲に求めてしまう。
それなのに、こんな近くにいて触れる事も出来ないなんて……拷問だと思う。
(渋谷ぁ、きみ無防備過ぎ)
心の中でこっそり嘆き、溜息を吐いてしまった。
ふと天啓のように閃く。
(触る位はいいんじゃないか?)
触るだけなら渋谷に負担をかける事もないし。……うん、いいよね。
僕は立ち上がって渋谷を組み敷いた。
「村田!?何、何なの!?」
「渋谷、何もしないから触ってもいい?」
大きな目を見開いて驚く渋谷を安心させるように微笑みかけた。
「十分してる、っつかドコ触る気よ!?」
もがきながら僕の下でうろたえる。まぁこの体勢じゃしょうがないかと苦笑した。
大丈夫だよ。本当に何もしない。
渋谷の隣に横たわって身体に腕を回す。肩の辺りに顔を埋めると、渋谷の身体がピクリと震えた。
「うん、渋谷の匂いだ」
伝わってきたぬくもりに少し安心する。
「え、むらた?」
「1〜2時間寝るから。起きなかったら起こして」
「寝んのかよ!?何おれ抱き枕!?」
喚く渋谷をそのままに目を閉じる。構ってくれないきみが悪いんだよ?
小さく笑いながら眠りの淵に落ちるまで、僕はずっと渋谷の声を聞いていた。
村田の寝息が聞こえてきて、有利はそっと溜息を吐いた。
(自覚がないのはどっちだよ、まったく……)
end