小説(1冊目)

□触覚
1ページ/2ページ

 渋谷がベッドに寝転がって雑誌を読んでる。もしかしなくても野球雑誌。
 僕はカーペットの上でベッドを背凭れ代わりに座っていた。視線を横に向ければ否応無しに渋谷の足が目に入る。膝下丈のハーフパンツに包まれた足は、片膝を立てているせいで腿の方まで見えてしまう。
 はっきり言って目の毒だ。

 何度も触れた肌の感触は今でも鮮明に思い出せる。添えた手を動かせばどんな風に滑るのか感覚で知ってる。
 何度肌を重ねても飽きない。それどころかもっと貪欲に求めてしまう。
 それなのに、こんな近くにいて触れる事も出来ないなんて……拷問だと思う。
(渋谷ぁ、きみ無防備過ぎ)
 心の中でこっそり嘆き、溜息を吐いてしまった。



 ふと天啓のように閃く。
(触る位はいいんじゃないか?)
 触るだけなら渋谷に負担をかける事もないし。……うん、いいよね。
 僕は立ち上がって渋谷を組み敷いた。

「村田!?何、何なの!?」
「渋谷、何もしないから触ってもいい?」
 大きな目を見開いて驚く渋谷を安心させるように微笑みかけた。
「十分してる、っつかドコ触る気よ!?」
 もがきながら僕の下でうろたえる。まぁこの体勢じゃしょうがないかと苦笑した。
 大丈夫だよ。本当に何もしない。
 渋谷の隣に横たわって身体に腕を回す。肩の辺りに顔を埋めると、渋谷の身体がピクリと震えた。
「うん、渋谷の匂いだ」
 伝わってきたぬくもりに少し安心する。
「え、むらた?」
「1〜2時間寝るから。起きなかったら起こして」
「寝んのかよ!?何おれ抱き枕!?」
 喚く渋谷をそのままに目を閉じる。構ってくれないきみが悪いんだよ?
 小さく笑いながら眠りの淵に落ちるまで、僕はずっと渋谷の声を聞いていた。





 村田の寝息が聞こえてきて、有利はそっと溜息を吐いた。
(自覚がないのはどっちだよ、まったく……)  



end
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ