小説(1冊目)

□Peaceful time
1ページ/2ページ

 血盟城の廊下を有利は音をたてないように忍び足で歩く。
 彼の背中まであと30cmの所に来た時、有利は手を伸ばして目の前の身体を抱き締めた。
「どうしたんですか、陛下?」
 振り返りもせず穏やかに笑って彼は訊ねる。気配に気付いていてそれでもされるままになっているのだから、そうされる事を望んでいたのだろう。
「陛下って呼ぶなよ、名付け親」
「すみません、つい癖で」
 ムッとして言っても彼は軽く受け流す。こういう時まだ子供扱いされているようで有利は少し悔しい。
「コンラッドはおれの名付け親なんだからな」
「はい」
「野球仲間でおれの保護者なんだからな」
「はい」
「おれの……なんだからな」
 抱き締める腕に力を込めた。真っ直ぐに思いを受け止めてほしくて。
「……ユーリ」
 彼は愛しさを込めてその名を呟く。
 微笑んだまま目を閉じて、身体の前に回された手にそっと触れた。



end
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ