小説(1冊目)
□声
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「渋谷……」
いつもより低めの声がおれの名を囁く。
荒い息の音が耳を通って腰の辺りにじわっと広がる。
骨ばった手が肌を探る感触に身体中が切なく疼く。
「あ……むら、た」
口から零れ落ちる声が自分の物じゃないみたいで、恥ずかしくて身を捩って逃げようとすると優しい眼差しに縫い止められる。
温かくて少し意地の悪い瞳がおれを捕らえて放してくれない。
「ずりぃよ、お前……」
なんかおればっか追いつめられてるみたいですげぇ悔しい。
顔も身体も心も全部が熱くて涙が浮かぶ。
そんなおれを見て村田は困ったように眉を寄せて笑った。
「ずるいのはきみの方だよ」
end