小説(1冊目)

□導く手
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 村田の手がおれに触れる。
 キーボードばっかり叩いているだろう指が身体の上を滑っていく。
 おれのごつごつした手とは全然違う繊細な、けれども女の子とも違う、ちゃんとした男の手だ。……女の子の手なんて中学のフォークダンス以来触ってないけども。
 その手に見合った繊細な動きでおれの感情を掻き乱していく。



 村田はこの手でおれをどこまでも導く。
 王として、人として正しい道へ。栄光へ。
 快楽さえも……。

 そこまで考えて、完全に思考が止まった。



「しーぶやー、何百面相してるのー?」
「え!?」
 おれの身体の上にあった筈の手が目の前にかざされている。ひらひらとした動きに瞬きを触発されて、はっと我に返った。
 我に返ったら村田とばっちり目が合って。そしたらさっきまで考えてた事が走馬灯みたいに頭の中に浮かんできて、顔がかぁっと熱くなった。
「顔真っ赤だよー。何考えてたのー?」
「何でもねぇ! 何にも考えてねーから!」
 村田がすうっと目を細める。何もかもを見透かされているようで恥ずかしい。クスクスと笑うその息の流れに、居たたまれなくなって目を逸らした。
「それって何も考えられないほど気持ち良かったって事?」
「そ、そうそう! そういう……――あ」
 判ってて追い討ちをかける村田に更に恥ずかしいリアクションを返してしまったバカなおれ。正直にばらしてた方がまだマシだったかも。
「じゃあ、もっともっと気持ち良くしてあげないとね」
 フワッと笑いながら村田の指が頬に触れる。その優しい感触に何も返せなくなって静かに目を閉じた。



end
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