小説(1冊目)
□逢引き
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「何か、だるい……」
ベッドにドカッと腰を下ろして深く溜め息を吐いた。スプリングの跳ね返す感触も慰めにはなってくれない。
眞王廟に貰った部屋の一室。見回すとやけに広くて寒々しくさえ感じられる。いつもならこんな事考えもしないのに。
「疲れてるんだ、きっと」
庭にある木の枝の伐採や建てつけの修理、その他もろもろ問題山積みで。食事さえ儘ならなかったくらいだ。血盟城に足を運ぶ暇なんか当然ない。
今日は渋谷の顔……全然見てない。
明るい声。快活な喋り口調。
見てるだけで幸せになれる笑顔。
横倒しになって目を閉じるとぼんやり浮かんでくる。
「会いたいな……」
もう夜も遅い。多分きみはもう寝ているだろう。隣に婚約者殿を置いて。
その光景が思い浮かんで胸の中心がチリッと焼ける。フォンビーレフェルト卿に対してそういう感情はないとちゃんと知っている筈なのに。
こんなネガティブ思考なのも――ある意味僕らしいけど、渋谷に会ってないからじゃないかと思う。きみに言ったら「責任転嫁だ」ってツッコんでくれたりするのかな?
あー、考えてたら無性に会いたくなってきちゃった。
勢いつけて立ち上がる。ただ悩んでるだけなんて行動派・ムラケンくんの名が泣くよ。……誰もそんな呼び方した事ないけどね。
とにかく会いに行こう。顔を見るだけでも良い。
きっと気持ちも晴れる筈だ。