小説(1冊目)

□Happy New Year
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 下弦の月を見上げていた。
「もうすぐ今年も終わりかぁ」
「そうだねー」
 現在血盟城にて、行く年来る年パーティー中。村田と2人で抜け出して、敷地内の小高い丘に登ってきていた。
「っていうかこっちでも大晦日ってあるんだなぁ」
「そりゃああるだろ」
「向こうでも新年迎えたばっかだってのに、ちょっと変な感じな」
「まぁねー」
 地球で初詣を終えた帰り道、ふとお水屋の杓子が目に入った。順番逆だが気になって、ついつい手を浸けてしまったらそこから眞魔国へ真っ逆さま。
 到着してみればこちらも年の瀬で、あれよあれよという間に巻き込まれ現在に至るという訳だ。
 何だか時をさかのぼってしまった気分だ。
「しかも時計ないじゃん。どうやってカウントダウンすんの?」
「新年になったら花火が上がる筈だよ」
「だからそれはどうやって判断すんだって聞いてんだよ」
「あ、もうそろそろかな?」
「無視かよ……」
 ドーン、ドーン。
 空をつんざく様な音と共に大きな花火が次々と上がる。
「かーぎや〜」
「玉屋じゃねぇのかよ」
「好みだから」
「あ、そう」
「渋谷」
「何だよ」
 振り向くと村田は真顔でこちらを見ていた。
「明けましておめでとう」
「お……おう、おめでとう」
 ふっと微笑まれてちょっと動揺してしまう。
「2回目だけどねー」
「2回目だけどな」
「何となく得した感じ?」
「そうかもな」
 村田の顔が花火の光に浮かび上がる。きっとおれもそうなんだろう。
「今年も魔王業頑張んなよ」
「勿論。っていうかお前も手伝えよ」
「まぁそれなりにはね」
「それなりかよ」
「今年も……よろしく」
「ん……よろしく……」
 そっと触れ合うだけのキスをする。顔を離したら何だか妙に照れくさくて、2人揃って花火を見上げた。
 ――自称婚約者と教育係が血眼になって探しにくるまで。

「ユーリ、主役がパーティーを抜け出すというのはどういう了見だ!?」
「うわヴォルフ! ちょっと新鮮な空気を吸いにきただけじゃんっ」
「少しは王としての自覚を持て!」
「陛下、猊下! このギュンターお2人の姿が見えなくなってからずっとその身を案じておりましたー!」
「15分も経ってないのにねー」
「ギュ、ギュンター、判ったから抱きつくなって。っていうか鼻血!? 新年初ギュン汁!?」
「すごいや渋谷。縁起物だよー」
「どこがだ!?」



end
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