小説(1冊目)

□思春期
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 何だか気まずい。

 僕の部屋で渋谷と2人きり。それ自体はいつもの事だけど、僕達は別段会話をするでもなく学校で出された宿題をするでもなく、並んでベッドを背凭れにただ黙々と本を読んでいた。――間に1人分のスペースを空けて。
 この僅かな隙間が巨大な壁となって僕の前に立ち塞がる。
 昨日やっと互いの思いを確認し合って身体を重ねたばかりだと言うのに。
 ――何でこんな事になっちゃったんだろうなぁ……。



 本日の下校中、公園辺りを歩いていた僕は憶えのある気配に振り向いた。
「あれ、渋谷じゃん。今帰り?」
「おう。村田も?」
「そうだよ」
 1日振りに見る渋谷の笑顔は何だか眩しくて。「約束もしてなかったのにこんな所で会えるなんてやっぱ運命?」なんて冗談混じりに言うと渋谷は照れ臭そうに笑った。
 そのまま並んで歩き始めた僕達はふとした拍子に手が触れ合った。その時僕はドキッとして思わず手を引っ込めてしまったんだ。
 胸の前で握った手が渋谷の感触を鮮明に思い出す。顔が熱くなっていくのが自分で判る。
 手が触れただけでこんな過剰反応を示すなんて思春期の子供みたいで情けない。――いや、村田健は現在思春期真っ只中なんだけどね。でも今までだってスキンシップはしていたし、昨日なんかもっとすごい事をした筈なのにこんな事で動揺するなんて……。
 変に思われただろうなぁと渋谷の方に目を向けたら……一瞬視線が交わった後、パッと顔を逸らされてしまった。
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