小説(1冊目)

□大人と子供
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 これはきっと嫉妬なんだ。
 渋谷から絶対の信頼を勝ち得ている彼への――。



 血盟城の廊下で僕は渋谷と取り留めのない話に興じていた。天気の話、野球の話、テストの話。内容はほとんどない。
 ふと目を向けると曲がり角に人影が見えた。むこうに背を向けて話している渋谷はまだ気付いていない。
 完全に姿を見せる前に僕は渋谷の腕を引き唇を重ねた。
「……はっ、ちょっと村田、何……んんっ」
 腕を突っぱねて文句を言おうとするのを力ずくで押さえ込んでまた唇を合わせる。舌を吸って擦り合わせて唾液を絡める。
 奪うだけで甘さの欠片もないキス。
 人影だったものが強張った表情でこちらを見ている事に満足し、唇を離して声を掛けた。
「やあ、ウェラー卿」
 僕の肩に凭れて息を整えていた渋谷が第3者の存在を示唆する言葉にギクリと固まる。恐る恐る振り返った。
「こ、コンラッド……もしかして今の……見てた?」
「はい、バッチリ」
 渋谷の名付け親は強張っていた表情を苦笑に変える。
「今夜あなたは目撃者って感じ?」
「今は昼ですけどね」
「うわーやっぱりー!」
「渋谷、落ち着けって……」
 動揺して喚き出す渋谷を背中から抱き締める。僕はうっすらと笑みを浮かべて渋谷の肩越しにウェラー卿を見上げた。
「どう思う? 僕達の事」
 聞いた所できみが本音を話すとは思わないけど。でもここで聞かないと何の為に見せつけるようなマネをしたのか判らない。
「どうと言われましても……」
「反対、とかする、よな……やっぱ……」
 渋谷も自分の名付け親にどう思われたのか不安らしく掠れた声で訊ねる。少し考えた後ウェラー卿はいつもの顔で微笑んだ。
「反対はしませんよ。この国では同性婚も認められていますし、王位も世襲制ではありませんから」
 教科書通りの返答だね。
「良かったー」
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