小説(1冊目)
□思い出の絵本
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「コンラッドいるー?」
「どうぞ」
いつものように部屋を訪れる。コンラッドは窓辺で椅子に腰掛けていた。
窓から差し込む日の光を浴び爽やかに笑って迎えてくれる。
その手元、大事そうに開かれている本に目が留まった。
「何読んでんの?」
「絵本ですよ」
どうりで厚さがないと思った。
「そんなん読むんだ?」
「昔ですけどね。たまたま本棚から見つけて懐かしくなってしまいまして」
そう言って愛おし気に本を撫でる。
「ヴォルフラムにも、よく読んでやってたんですよ」
いつもだったらホッとする筈の微笑みに胸の中がモヤモヤした。
コンラッドが弟をすごく可愛がってるのも大事にしてるのも知ってるんだけどさ……。
「……なぁ、それおれにも読んで?」
後ろからコンラッドを抱き締めるとキョトンと振り返る。
「それは構いませんが、もうご自分で読めるんじゃありませんか?」
「コンラッドに読んでほしいの!」
その本の思い出におれも加えてほしい。真っ先に思い出されるのは自分でありたい。
弟にまで嫉妬するなんてバカみたいだけどさ。
「アンタの声、聞かせてよ」
「……はい、陛下」
コンラッドがクスリと息を零す。その音に、おれは抱き締めていた腕を強めた。
「陛下なんて呼ぶなよ、名付け親」
end