小説(1冊目)
□眼鏡コンプレックス
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ふとした拍子に眼鏡がずれた。僕の動きに伴ってどんどん鼻筋を滑り落ちていく。
フレームが視界に入ってきて、鬱陶しくなって眼鏡を脇に放り投げた。途端に目の前がぼやけて舌打ちする。
ちゃんと渋谷の顔、見ていたいのに……。
こんな時、自分の視力が恨めしくなる。
これは先天的なものじゃない。そりゃ確かに遺伝も多少はあるかもしれないけれど、大部分は自己責任だ。
それは、判ってるんだ。
「あ……は、んんっ……」
甘く上擦る喘ぎ声。
忙しなく荒い息の音。
手に触れる弾力と熱さ。
零れていく雫と脈動。
全てが鮮明なのに、視界だけが利かない。
すごく、もどかしい。
悔しい。
身体を乗り上げて目尻に光る涙が見える程に顔を近付ける。
渋谷の名前を呼んで、薄く開かれ濡れた唇に噛み付くようなキスをした。
end