小説(1冊目)

□小さな癖
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 パイを口に入れようとしたら視線を感じた。
 小さなテーブル越しに目を合わせると、正面に座る渋谷は視線を落としてジュースのストローをつつく。
「渋谷ってこのパイ好きなんだ?」
「な、何で判んの!?」
「何故でしょう?」
 驚きに目を見開く渋谷に僕はとぼけて返した。



 街角で目に留まった1枚の映画ポスター。
 テレビで流れていたCMを思い出しながら話をしていると、渋谷の視線がスイッと隣に移った。
「あれ、渋谷この映画嫌いなんだ? 好きそうだと思ったのに」
「いや映画じゃなくてこのポスターの絵が受け付けない……っていうか何でそんな事判んだよ!?」
「さぁねー」
 気付いてるのはきっと僕だけ。



 ともすれば見落としてしまうだろう細かな目の動き。
 そのほんの小さな癖の中に、きみの好きと嫌いが隠れてる。



「渋谷、僕の事どう思う?」
 渋谷の顔を正面から覗き込む。
「どうって、別に……」
 返事はやっぱり素っ気ない。
 けれども顔をほんのり朱に染めて、視線を真っ直ぐ下に落とした。
 耳では聞けない最上級の答え。僕は思わず頬を緩めていた。



end
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