小説(2冊目)

□誕生日ケーキ
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「あー、疲れた」
 今日は眞魔国の王様、つまりおれの誕生日。
 国を挙げてのパーティーの後、何故か眞王廟の村田の部屋に連れ込まれていた。
 村田はおれを部屋に放り込んでからまた出て行ってしまったので1人手持ち無沙汰状態だ。
 仕方なく他人様のベッドに乗っかってウトウトしていると、ようやく部屋の主が戻ってきた。
「お待たせー、渋谷」
「遅ぇよ……って何持ってんの、お前」
「ん? ケーキだよ」
 村田の右手にある皿に目を向けると村田がニッコリと笑う。いやそれ見りゃ判るから。
「あんだけ食ったのにまだ食うのかよ」
「だって2人きりでお祝いしたかったんだもん」
 拗ねたように唇を尖らせておれの転がっているベッドに座る。
「だもんって……子供かお前は」
「それにさ、このくらい2人で食べればすぐなくなっちゃうよ」
 村田はおれの頭を自分の膝に載せた。判りやすく言うと膝枕。
「あのさ村田、寝てたら食えねぇんだけど」
「心配御無用。ちゃーんと食べさせてあげるってー」
 先割れスプーンを巧みに使い1口大に切ったケーキを口元に運んでくる。っていうかこういう時は普通にフォーク持って来いよ。
「はい、あーん」
 何となく気恥ずかしい気がして一瞬躊躇った。だが抵抗するのも面倒臭い気がして素直に口を開ける。
 スプーンからケーキを咥え取り咀嚼すると、柔らかいスポンジが砕けクリームの甘さが広がっていく。
「美味しい?」
「うん、美味いよ」
「じゃあ僕も食べよう」
 村田はまたケーキを1口大に切り、今度は自分の口に運んだ。
 次はおれ。次は村田。交互に繰り返していく。
 そして最後に残った苺を摘んでおれに咥えさせた。
「まだ食べちゃダメだからねー」
 目を細め顔を傾けてくる。唇が軽く触れ合い、小さな衝撃と共に甘酸っぱい液が流れ込んできた。
 顔が離れ半分に欠けた苺を口の中に迎え入れる。もう半分は村田の口の中。
 張りのある表皮と柔らかい酸味と甘味を味わい飲み込んだら自然に笑みが零れた。
「誕生日おめでとう、渋谷」
「うん、サンキュ」
 前髪を掻き上げられ、おれより少し低めの体温が額に触れる。
 目を閉じると唇が降りてきて、ふわりと重なり合った。



end
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