小説(2冊目)

□読書会
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 いつもの如く住人の意に反し冷房を掛けられない(掛けさせてもらえない)村田家リビング。
 それでも真夏の頃よりは大分過ごしやすくなってきていた。
 村田を宿題に付き合わせようと上がり込んでいた有利が、テーブルに本を立てるように持ちながら船を漕いでいる。
 その様子に気付いた村田はテーブルの向かい側から呆れて声を掛けた。
「しーぶーや、寝たら駄目だよ。その本明日までに読んで感想文書くんだろ?」
「うー……判ってんだけどさぁ、もうこの活字が宇宙語に見えてきちゃって……」
 今にも眠りの国に旅立ってしまいそうな有利の返事はフワフワと宙を漂う。
「きみは宇宙語どころか異世界語をマスターしちゃってるじゃないか」
「マスターはしてませんー……」
 ツッコミにも覇気がない。
 大きく溜め息を吐いた村田は、よっこらせ、と高校生失格な掛け声と共に立ち上がる。
 有利の目を覚まさせ自分の欲求もそれなりに満足させるために、最善の策を弄する事にした。
「渋谷、ちょっと腰浮かせて」
 背後に立った村田は有利の両脇を抱える。
 成すがままの有利の尻の下に脚を滑り込ませその身体を後ろから抱き締めた。
「じゃあ、僕が読んであげるよ」
 身体の揺れに意識がハッキリした有利はパチクリと瞬きを繰り返す。
 尻の下と背中の体温を感じてカーッと頬を赤く染めた。
「むむむ村田、お前何やって……!」
「人間座椅子」
「そゆこと訊いてんじゃねー!」
「はいはい、読むよー」
 喚きながらもがく有利を片手で抱いたまま、村田は本を引き寄せページを捲る。
「昔々ある所にお爺さんとお婆さんがいましたー」
「おれが読んでたのは昔話じゃねえ! っつか降ろせー!」
「イヤ」
 村田はそらで物語を展開し、有利は暴れながらツッコむ。
 この攻防は何だかんだで小1時間程続いたんだそうな。



おしまい
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