小説(2冊目)

□恋愛相談
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「渋谷、僕好きな人がいるんだ」
「はあ!?」
 僕の告白に渋谷は素っ頓狂な声を上げた。
「そんなに目を見開いてたら目玉が落っこっちゃうよ?」
「そんなホラーな事態にはなりませんー、っつかそれはこの状況で言う事なのか?」
 渋谷の言う事にも一理ある。
 僕達は先程まで熱を共有し合い、繋がっていた身体を離した、その直後だった。
 確かにこんな時に言う事じゃないよねー。
 しかし僕はニッコリと笑いベッドに転がったまま渋谷の身体を引き寄せる。
 まだ熱の引かない身体はシーツの中でしっとりと汗ばんでいた。
「まぁまぁ聞きなって」
「聞きたくねーよ」
「その子はね、サラサラの黒髪で、目が大きくてくりっとしてて、明朗で快活で凄く可愛いんだ」
 説明をしながらうっとりと渋谷の髪に触れ、瞼に触れ、鼻筋に触れ、唇に触れる。
 渋谷は眉を寄せ、目を閉じた。僅かに力の入っている瞼が震えている。
「で、それはおれの知ってるヤツ?」
 普段より低めの不機嫌そうな声。
 僕、自惚れちゃってもいいかな?
「うん、知ってる人だよ」
「……誰なんだ?」
 目を開き真っ直ぐに僕を見据える。真実を受け入れようとする強い瞳。
 吸い込まれてしまいそうになりながら、顔には出さずシレッと言い放つ。
「渋谷だよ」
「…………は?」
「だーかーら、渋谷だって。僕が渋谷以外の誰を好きになるって言うのさ」
「――……」
 渋谷は絶句してパクパクとただ口を開閉する。
 僕はしてやったりと唇の端を吊り上げた。
「……〜〜っ」
 じっと観察していると、段々渋谷の顔が赤く染まり引き攣ってくる。
 そして怒りが頂点に達した時、耳をつんざくような怒号が響いた。
「紛らわしい事言うなーっ!!」
「わ……煩いよ渋谷……」
 思わず耳を塞ぐと、その隙に渋谷はゴロッと背中を向けてしまう。
「おーい、しーぶーやーくーん?」
「うるせー黙れ!」
「きみの方が煩いよ……」
 拗ねてしまった背中を抱き締めるが、なかなか魔王様のご機嫌は直らない。
 それでも勘違いをした自分を恥じてだろう、耳が赤くなっている。
 そんな反応が可愛くて、嬉しくて。
 僕はその耳朶にそっと唇を寄せた。



end
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