小説(2冊目)

□影法師
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 僕の影と渋谷の影。
 隣り合った2つの影はくっついては離れ、離れてはくっつく。
 まるで別の世界で触れ合っているみたいだ。

 僕達はあちらの世界で双黒の者と呼ばれているけれど、影は皆等しく黒だ。
 光の加減で濃かったり薄かったりするけれど、そこには鮮やかな色なんて存在しない。
 魔族も人間も神族さえも、影の中では平等なんだ。
 双黒が敬われたり、蔑まれたりする必要もない。

「なぁ渋谷」
「何?」
「手繋いでもいい?」
「駄目に決まってんだろ」
「ちぇー」

 渋谷は、変に思われるから、と外での恋人らしい行為を頑なに拒否する。
 僕は周りにどう思われようと構わないと思うんだけど。
 良識というのは意外と厄介だ。
 僕が口を尖らせて拗ねて見せると花が綻ぶように微笑む。
 その顔が好きだから、僕は少しだけ溜飲を下げた。

「しーぶーや」
「何?」
「デコピン」
「痛っ! 何すんだよ!?」
「力士って髷が結えるようになったお祝いにデコピンするんだってー」
「そんな豆知識いりません。っつかおれ力士じゃないから」

 眉を顰めて額を擦る仕草が可愛くて、渋谷の額に手を伸ばす。
 間近にある瞳に笑い掛けて自分で付けた跡を指先で撫でた。

 地面に映る僕達は、仲睦まじくキスをしていた。



end
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