小説(2冊目)

□熱の共有
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 有利の部屋では扇風機が地味に存在を主張している。
 部屋の主の意向でエアコンはただの飾りと化しており、外は風雨の為空気を入れる事も叶わない。
 テーブルに載せたテキストを前にうんうん唸っている有利の隣で、村田は扇風機を占領していた。
「暑いー……」
「だっらしねー格好」
 有利はテキストから目を上げて、扇風機の風を顔面で受けながらボーッと髪をなびかせている村田をピシャリと評した。
 村田は疲れたように猫背のまま有利を横目で見やり、また視線を戻してカクッと頭を垂れる。
「もう手足が熱持っちゃって、何もやる気しない」
「それ血行不良ってヤツだろ。運動不足だよ」
「どうせ僕は優等生デスカラー」
「自分で言うな。っつか優等生でも運動するヤツはするよ」
「もう融けそう……あ、渋谷の二の腕ひんやりしてる」
 身体を仰け反らせると有利の腕にぶつかり、不意に触れた冷たさに村田はそっと手を這わせた。袖口に指先を潜らせるとピクンと腕の筋肉が収縮する。
「ちょ、村田」
「気持ち良い……」
 動揺して全身を強張らせる有利の二の腕を抱き締めてうっとりと頬を擦り付ける。肌に触れる村田の体温は火のように熱かった。
「お前……熱いよ」
「別に風邪はひいてないけどね」
 自分の返答にクスッと笑ってまた手を滑らせる。村田の体温が有利の肌に移って熱くなる度に、冷たさを求めてまた手が移動する。
 全身を村田の熱に侵されているみたいで、有利は熱の籠った息を吐いた。
「お前のせいでおれまで暑いよ」
「じゃあついでだから、もっと熱くなる事、しよっか?」
 耳に触れていた手が村田自身の体温より更に熱くなった頬に触れる。
 熱い視線が絡んできて、有利はゆっくりと目を閉じた。
「後で責任持って宿題教えろよ」



end
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