小説(3冊目)

□不安を抱いて
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 電車が来ない。
 人身事故があったらしくて、現場検証やら安全確認やらで本来の出発時間から既に30分が経過している。
 学校も終わって後は帰宅するだけだから、僕自身にとっては大した問題じゃない。
 でも渋谷がいる。
 地元の駅前で、渋谷はいつも通り僕を待ってくれているだろう。
 時間厳守の彼だから、もしかしたら僕が来ない事を心配しているかもしれない。
 それが辛い。

 せめて渋谷が携帯電話を持っていればこの状況を説明出来るのに。
 僕と一緒にいれば不便はないからと、一向に持とうとしない。
 いつも一緒にいるからと笑ってくれるのは嬉しい。けれど四六時中一緒にいられる訳じゃない。
 こうして離れている時間はとても不安だ。
 きみは僕を笑って出迎えてくれるだろうか。
 それとも遅刻した僕に愛想を尽かして先に帰ってしまうだろうか。
 きみと繋がる事の出来ない焦燥感に押し潰されてしまいそうだ。

 ようやく運転再開のアナウンスが流れた。その内電車は到着するだろう。
 再びきみの笑顔に会うために、僕は不安を抱えてただ立ち尽くしている。



end
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