小説(3冊目)

□背中合わせ
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 背中をピタリとくっ付け合う。
 隙間の出来ない様に、背筋を伸ばし気味にして。
 シャツ越しに伝わる体温が嬉しくて、ドキドキする。
 頭をゴリッと擦り付けると渋谷は「痛ぇ」と呻いて前屈みになった。
 離れない様に付いて行くと背中で圧し掛かる姿勢になる。
 渋谷が益々苦しそうに呻くので、僕は思わず笑ってしまった。



 もう暦上ではとっくに秋を迎えているというのに、夕方になってもまだ気温は高いまま。
 くっ付けた場所が汗ばんで、布が少しだけ湿っていく。
 それでも離れたいとは思えなくて、おとがいを上げたまま力を抜いて目を閉じた。
 このまま溶け合ってしまえれば良いのにね。



 いい加減堪忍袋の緒が切れたらしい渋谷が勢い良く起き上がった。
 押された反動で僕の身体が前屈みになり全てが離れてしまう。
 所詮僕達は個々の生命体で溶け合う事など出来はしない。
 離れた体温に寂しさを感じながら振り返ると、渋谷も振り向いて僕を見た。
 鋭くぶつけられた視線がふと和んで優しく絡む。
 不自然な姿勢のまま顔を寄せて、そっと唇を合わせてからまた背中をくっ付けた。
 溶け合う事は出来ないけれど、重ねる事で安心する。
 背中に体温を感じながら、僕は身体の横に置かれた手に自分の手を重ねた。



end
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