小説(3冊目)
□釣りをするひと
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草の生い茂る血盟城の中庭で、村田は1人釣竿を立てていた。
うだるような暑さの中、城壁を背に座り込んで見事に日を避けている。
こういう辺り、抜け目がない。
「猊下、何してるんですか?」
城の渡り廊下からコンラッドが声を掛ける。
夏の日差しを浴びて輝く笑顔は、本日も爽やか絶好調だ。
そんな彼を正面に見上げて村田はニヤッと笑った。
「釣りだよー」
「でもそこは海でも川でもありませんよ」
釣糸は草の上に垂れていた。しかもその先には長方形の紙切れが1枚。
「まぁ見てなって」
何かを企んでいそうな村田と意図が判らずただ釣糸の先を見つめるコンラッドの間で、紙切れが一瞬の涼風に吹かれて宙を舞った。
5分後。
「あれ、これナイターのチケットじゃん! なんでこんなとこ落ちてんだ?」
ユーリが庭に落ちているチケットを拾い上げる。
「掛かった!」
「え? え?」
大声に反応しきる前にチケットごと手を引っ張られ、そのまま身体も移動する。
辿り着いた先には釣竿を持ち、クスクスと笑う村田がいた。
「マグロならぬ渋谷の一本釣りだね」
「陛下……」
「え、何? 何なの?」
得意気な村田とユーリの野球バカっぷりに思わず苦笑するコンラッド。
ユーリはそんな2人の間で視線を彷徨わせ、しばらくの間パニクッていた。
状況を把握したユーリがプチギレするまで、後3分――。
end