小説(4冊目)

□合わせ鏡
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 合わせ鏡には未来が見えると言う。
 ならば僕達の未来は、一体どうなっているんだろうね?



「渋谷は自分の未来に興味ある?」
「村田……お前変な宗教にでも入った?」
 僕の唐突な質問に渋谷は怪訝な顔をした。違う違うと首を振り、苦笑を浮かべながら補足の説明をする。
「合わせ鏡をすると、無限に続く像の中に未来が映るって言うだろ」
「悪魔が出てくるんじゃなかったっけ」
「そんな非現実的な事ある訳ないだろ」
 話の腰を折られて素気なく突っぱねた。渋谷がそっちだって似たようなもんじゃんかと口を尖らせる。
 その態度をサラッと受け流して僕は続けた。
「だからさ、検証するために2人で合わせ鏡をしてみようよ」
「別に興味ないし」
 口を尖らせたまま渋谷は拒否を示す。すぐに引き下がるのも悔しいので食い下がってみる。
「いいじゃん、たまには僕の我侭に付き合ってくれたって」
「いっつも付き合ってるし」
「ねー渋谷ー」
「……あ、わざわざそんな呪われそうな事しなくてもさ、眞魔国に行けば魔鏡があるじゃん!」
 辟易していた渋谷が突然、名案を思いついたように顔を明るくした。
「え……?」
「魔鏡って人の過去や未来が見られるんだろ。迷信を信じるよりよっぽど確実じゃん」
「……」
 僕は思わず言葉に詰まってしまった。
 僕だって合わせ鏡に未来が映るなんて事は信じていない。むしろ見える訳がないと心のどこかで安心していた。
 しかし魔鏡なら……魔鏡ならば確実に映し出されるだろう。
 隣には魔王である渋谷がいる。確実に僕達の未来が判ってしまうだろう。
 不意に知る事への恐怖に駆られる。
 僕達の未来は一体どうなっているだろう?
 僕はちゃんときみの隣に立っているんだろうか?
「……なーんてな」
「え?」
「大体未来未来って言うけどさ、1年後とか1ヶ月後とか、それこそ1秒後だって未来なんだぜ。気にしてたらキリないって」
 固まっている僕を見て渋谷が苦笑した。
「それに先が見えないからこそ、人生ってのは面白いんじゃねーの」
 世の中の全てを楽しんでいるからこそ言える台詞。
 でも……そうだね。予定調和なんてつまらない。
 どんな不利な状況でもその場にいて、自分の力で変えていくからこそ楽しいんだ。
 きみの傍にいたい、助けたいというこの思いは願望でしかないけれど、望んだ未来を迎える努力をすればいい。



 先の見えない未来より、明るく照らされている今この時を大切にしよう。



end
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