小説(4冊目)

□落葉舞い散る
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 ひんやりとした空気を伴う薄闇の中、僕は渋谷と並んで歩いていた。
 日はすっかり翳ってしまい、街灯がスポットライトの様に足元を照らす。
 銀杏の並木道に差し掛かり落葉の絨毯を踏み締めた時、一陣の風が音を立てて木々を揺らした。
 無数に降り注ぐ銀杏の葉は灯りを受けて淡く輝き、周りを囲む闇と相まってまるで雪みたいでとても綺麗だ。
 しかしそれはやはり雪ではなく、肌に当たれば痛いし体温で融ける事もない。
「痛っ痛い、村田さっさと抜けようぜ」
 渋谷が痛みに顔を顰め、鞄を抱えながら手の甲を撫でた。
「渋谷、きみには情緒を感じる心が欠けているようだね。この美しい光景をゆっくり味わおうとは思わないのかい?」
 若いとは言え僕達は日本人の端くれだ。その心を忘れてしまっては嘆かわしいと言わざるを得ない。
 やれやれと溜め息を吐くと渋谷は鋭くこちらを見た。
「お前はちゃっかり傘なんか差してるからそんな事言えるんだよ」
 その指摘を受けて僕は小雨対策にと差していた折畳み傘の柄を肩に載せる。不貞腐れた表情で僕を睨み付ける渋谷に口端を軽く釣り上げて見せた。



 ――そう、これは条件の相違。
 感動というのは自分の心に余裕がなければ生まれないものなのだ。



end
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