小説(4冊目)

□勉強会
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「これを公式のここに代入して……」
「えーと……こう?」
「はい、正解」
「はぁ……」
 問題集の問いを1問解き終えたおれは、正解だった事にホッとして大きく息を吐いた。



 数学の時間に明日テストをすると聞かされたおれは、一も二もなく村田に泣きついた。自分の勉強もあるだろうに二つ返事で引き受けてくれた彼には感謝してもしきれない。
 かくしておれは村田の家に上がり込み、リビングで問題集を広げていた。
 ご両親は仕事で留守らしく、テレビも点いていない室内はやけに静かで、村田家で飼われているアンゴラモルモットがたてる小さな音すら響くくらいだった。

 息の音が聞こえた気がしてチラリと横目で見てみる。村田はどこか遠くを見るような眼差しで微笑んでいた。
「何ニヤニヤしてんだよ」
「いや、教えがいがあるなぁと思ってさ」
「イヤミか? まぁこれだけ覚えが悪けりゃ教えがいもあるだろうけどさ」
「そういう意味じゃないよ」
 おれは脳味噌筋肉族だし決して良い生徒じゃないだろうと返すと、彼は苦笑して首を振った。
「じゃあ次、同じ要領で出来るから1人でやってみて」
 さっき出来た問題の次を指して村田がこちらを見た。
「ほったらかしかよ!?」
「ヒントは与えたよ」
 突き放すような言い方に抗議するが村田はシレッと言い返した。恨めしげな視線を送ってもニヤニヤとおれの顔を眺めるばかりで口を開こうとはしない。
「うー……」
 にらめっこしててもしょうがないしと指定された問題に目を落とした。
(要領はさっきと同じだっつってたよな……)
 頭の中にさっき教えられた公式を引っ張り出す。前の問題を思い出しながら数字を当てはめ慎重に計算していく。
「ど、どうでしょうか……?」
 さっきの倍も時間を掛けてようやく導き出した答えを恐る恐る村田に見せる。
 ザッと検算した後満足気に大きく頷く。
「大変よくできました」
 そう言ってニッコリと微笑んだ。
 ホッとしたような、どこか誇らしげな笑顔が凄く可愛いと思ってしまった。

 怒られそうだから言わないけどな。



end
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