小説(3冊目)

□りんご飴の逆襲
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「渋谷……もっと欲しい」
「え、村田……んんっ……」
 再び顔を近付けて、今度はちゃんと唇を重ね合わせる。舌を挿し入れると渋谷の口内には甘い膜が張られていて、それがねっとりと絡みついてくる。
 クセになってしまいそうな味。
「渋谷……」
 段々と、身体の奥に火が点き始める。
 唇から離れて顎を通り、喉元に唇を押し当てた時、また渋谷にグイッと引き剥がされた。
「アホ! おれ食うくらいなら飴を食え!」
「えー、渋谷でいいのにー」
 茶化し口調で反論するけど、本当はお預け状態でちょっとイライラしてる。
 でも。
「おれは食い物じゃアリマセン」
 そう言って真っ赤な顔で僕を睨みつけてくる渋谷の目が泣き出しそうに潤んでいたから、これ以上苛めるのも可哀想な気がして苦笑で済ませた。
「――さて」
 せっかく渋谷に進呈して頂いたので、久々にりんご飴と対峙してみる事にする。握り拳よりも大きな飴にはやはり圧倒されてしまうけど。
 間接キスだねーなんて思いながら、渋谷の齧った後を取っ掛かりに歯を立てる。
 顎に力を込めて齧ると飴の縁が歯茎に当たって、痛みに思わず顔を顰めた。
「痛っ」
 口を押さえながらとりあえず咀嚼する。りんごの酸味と飴の甘味、その調和は素直に美味しいと思う。
 しかしそれを痛みと引き換えにする程の価値があるのかと問われると、その答えは否な訳で。
「もう、これだからりんご飴はあんまり食べる気しないんだよっ」
 感情のままに毒づいた。
 舌で傷付いた辺りに触れると血が滲んでいるのが判る。あーあ、もう。
 掌で口を押さえたまま少し沈んだ気分で傷口を舐めていると、僕を面白そうに見ていた渋谷の顔が近付いてくる。
 手をそっと外されて、渋谷の舌が僕の口端をペロリと舐めた。



end
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