小説(3冊目)

□サンタとトナカイ
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 いつもの学ランと荷物を受け取って村田の部屋に入る。
 シャツに袖を通しながら村田に目を向けると、濡れた服を脱ぎもせずベッドの上に投げた荷物の紐を解いていた。
「村田、着替えないと風邪ひくぞ」
「今から僕達はこれに着替えるんだよ」
 包みを開けておれを見る。眼鏡がキラリと光った気がした。
 それはひとまず置いとくとして、おれも付き合わされるのか。
「で、それは一体何なんだ?」
 眞魔国に連れて来られている時点で今更かと、溜め息混じりに広げられた荷物を眺める。中に入っていたのは赤と薄茶色の暖かそうな生地の服。
 ん? これってどこかで見たような……?
「なぁ渋谷、地球では12月25日と言えば何?」
「何ってそりゃクリスマス……ああっ!」
 そこまで言ってピンときた。そうかサンタか、サンタクロースか。
 村田の手によって掲げられた物は予想通り、赤い服の襟と縁が白い毛で覆われているサンタクロースの衣装だった。
「じゃあそっちは?」
「これはトナカイさん」
 薄茶色の方はハイネックのノースリーブに同色のアームウォーマー、膝下丈の短パン、首元にはリボンと鈴という非常に可愛らしい衣装だ。ご丁寧にも角と耳の付いたカチューシャ付き。
 唐突に嫌な予感がした。
「なあ、これどっちがどっち着んの?」
「どっちでもいいよ」
 あっさりさっぱり言い切られた。何だか釈然としない。
「じゃあおれがサンタの方取ってもいい訳?」
「うん」
「……」
 真顔で頷かれて何も言葉が出なかった。
 お袋といい兄貴といい、妙に可愛い服をおれに着せたがる奴らが周りにいるもんで、村田もその類かと疑ったんだが違ったようだ。
 ちょっと申し訳ない気分になった。
「……ていうかこっちにはクリスマスないじゃん。どうやって仕立ててもらったんだ?」
 話を逸らすように真っ赤な服を掲げながら、ふと湧いた疑問を投げかける。村田はようやく濡れたシャツを脱ぎながら地球の単語で答えてくれた。
「オーダーメイド」
「はぁ」
「僕がデザインを描いてね。それを元に作ってもらったんだ」
「はぁ」
 気の抜けた返事を連発してしまった。
 以前おれと勝利の前でイラストを描いて見せてくれたが、こんな才能も持っていたとは驚きだ。
 さすがダイケンジャー、底が知れない。
「確かにこの世界にクリスマスはないけどさ、僕達がサンタとトナカイになって、日頃お世話になってるこの国の人々に少しでも恩返し出来たらいいなと、思ったんだ」
「村田……」
 そんな事を考えていたとは。
 ごめんな、変態さんかと疑ったりして。
「うん、いいよ、やろうぜ村田! 皆にプレゼント大作戦!」
「あーでもプレゼントの方は用意してないんだよねー」
「え……?」
「テヘ?」
 盛り上がった気分が一気に鎮火した。
 ……そうだよな。おれ達何も持たずに眞魔国に来たもんな。そしてこっちでは自由になる金も少ないもんな。
 一応この国のトップなんだけどな……おれ達。
「とりあえず血盟城に行って、2人でケーキでも作るか……」
「そうだね。晩餐代わりにクリスマスパーティーってのもいいんじゃないかな?」
 脱力したままとりあえず衣装を着込む。
 お約束の帽子も被って見た目だけはサンタ男になった頃、村田もカチューシャを付けてトナカイコスプレ完成だ。
 改めて見る間でもなく可愛らしい格好で、男子高校生の服装としてはどうなのかと思う。
「なぁ……もうちょっと地味なデザインでも良かったんじゃねえ?」
「何言ってるのさ。このくらい可愛い方が目の保養になるだろ」
「……」
 果たして本当に目の保養になるのか?
 もしかしたら……目の暴力に……なったり、しねえ?
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