小説(3冊目)

□サンタとトナカイの秘密
2ページ/4ページ

「ん、う……んっ……」
 啄むような優しいキスが深く激しく変わっていく。息継ぎが上手く出来なくて、おれはすっかり酸欠状態だ。
 不意に唇が離れてボーッとしたままゆっくり目を開けてみる。可愛らしい格好に似合わない村田の強い視線に射抜かれて、鼓動が1つ大きくブレた。
 村田とは何度か……何度も身体を重ねているが、情欲の目を向けられる事には未だ慣れない。
 恥ずかしくて、どうしていいか判らなくなる。
「え、と……」
「大丈夫だよ」
 思わず目を逸らすとクスリと笑ってまた深く口付けてくる。舌を擦り合わせるように弄りながらおれの上衣を開き、村田の手が肌に触れる。
 腹から胸を掠めるように撫で、乳首をキュッと摘まれて身体がビクンと跳ねた。
「あ……っ」
「気持ち良さそうだね、サンタさん」
 呼ばれた事のない名前で呼ばれて、快感に流されかけていた頭が急速に冷める。呆けた声が漏れると村田はニヤリと笑って、自分の首元に付いている鈴を指先で弾く。
 チリンと可愛らしい音が部屋に響いた。
「せっかくこんな格好してるんだから、少しくらいは楽しもうよ」
 笑みを浮かべた唇が首筋に触れ、今まで気にならなかった鈴の音が耳につき始める。小さな痛みを残しながら唇が下に降りていき、ズボンから片足を引き抜かれて、冷えた空気に肌が粟立つ。
 既に勃ち上がっているものを紐パン越しに握られて、すぐ近くに村田の顔があると判っていても腰が揺れるのを止められなかった。
「や、ぁ……!」
「サンタさん腰動いてるよ。もうこんなに硬くなってるし」
「知ら、ね……」
「凄くやらしい」
 紐を片側だけ解かれて蜜に濡れた下肢が村田の眼前に晒される。そこを温かい口内に含まれて上下に扱かれると、水音と一緒にチリンチリンと鈴が鳴る。
 村田が『サンタさん』と呼ぶ度に、おれ達の馬鹿げた格好を再認識させられる。纏わり付く鈴の音に全身を冒されていく気がする。
 後ろに指が入り込んできた時、瞼に溜まっていた雫がこめかみを流れ落ちた。
「も……やだぁ……」
 快感と情けなさが渦巻いて涙が溢れてくる。慌てて両腕で覆い隠すと下肢への刺激が止まり、ギシッとベッドが揺れて頬に濡れた何かが触れた。
「渋谷、泣いてるの?」
 おれの涙で濡れた手が、顔を隠していた両腕をそっと剥がす。ぼやけた視界には村田の不安げな表情があった。
 泣かせているのはお前だと喚いてしまいたい。何故おれがこんな思いをしなきゃいけないのかと。
 胸が苦しくて、嗚咽だけがただ零れる。
「泣かないで。……嫌だったら、やめるから」
 自分も泣き出してしまいそうな顔で、村田がおれの涙を優しく拭う。瞼に、鼻に、額に、頬に、柔らかく唇を押し当てていく。
 こんな風におれが好きだと伝えてくれるから、おれは村田を嫌いになれない。
 ちゃんと返してやりたいと、思ってしまうんだ。
「なぁ……服、脱げよ」
「え……?」
「サンタとトナカイとかじゃなくて、おれは村田とがいい」
 他の誰でもなく、おれは村田が好きなんだよ。
 腕を回して頭を引き寄せると、村田は嬉しそうに目を細めて髪に指を絡めてくる。
 1度だけ唇を触れ合わせて、ゆっくりと身体が離れていった。
「待ってて」
 遠退いてしまった体温に寂しさを感じながら、起き上がった村田を眺める。トナカイの衣装を脱いで露わになっていく素肌にドキドキして、脱がされかけたみっともない自分の格好を繕う事も出来ない。
 最後にカチューシャを外して、産まれたままの姿になった村田が再び覆い被さってきた。
「お待たせ、渋谷」
 隔たりのない村田の瞳が真っ直ぐにおれを見つめる。緊張に揺れるおれの瞼に温かいキスを落として、纏わり付くサンタの衣装を少しずつ脱がしていく。
 遮る物がなくなって直接触れ合う肌の感触に、身体が勝手に熱くなる。
「村田……」
「うん、判ってる」
 囁くように頷いて村田がおれを愛撫していく。手で、舌で、唇で。壊れ物を扱うような優しさと、芯に響く強い刺激に翻弄される。
「あ、んあっ……!」
「凄く色っぽい、渋谷」
 熱を含んだ声が耳をくすぐって背筋がゾクリと震える。下肢を扱きながら後孔を指で掻き混ぜられ、ピリッとした痺れに全身が強張った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ