小説(2冊目)
□思い言葉
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胸の突起を舌で転がし、熱を持った渋谷自身を扱く。渋谷は忙しなく酸素の供給を繰り返ながら、すっかり熟れた身体を持て余しベッドの上で身悶えた。
「渋谷、気持ち良い?」
「や……知ら、ね……あっ」
切なく眉を寄せる。僕の手を濡らす液体がシーツにポタリと染みを作った。
「知らないって事ないだろ。こんなにトロトロなのに」
「やめ……あぁ……!」
握ったものの先端を人差し指の先で撫でるとビクンと弓なりに身体を反らせる。滑りを帯びた蜜が溢れ出し渋谷自身を彩っていた。
「も、やだぁ……っ」
「嫌? やめてほしいの?」
手を止めると脈打つ感覚が強く伝わってくる。渋谷の身体は刺激を求め、解放を待ち望んでいる筈だ。
しかし渋谷はガクガクと震え、縋るように僕を見上げて声を絞り出した。
「やめ……ろ……」
「……判った」
その声に本気を感じ取り手を放す。身体を離し指の間を流れ外気に冷えた液体を僕はペロリと舐め取った。
「は、はぁ、はぁ……」
僕から解放された渋谷は呆然と荒い呼吸を繰り返しゆっくりと起き上がる。表情を消して見つめていると不意に顔を歪めた。
「う、っく……うぅ……っ」
「……何で泣くのさ」
望む通りにしたのに。
渋谷の瞳から零れ落ちる涙に心臓がキリッと痛む。渋谷は唇を噛み締め顔を隠すように俯き膝を抱えた。
「知ら……ねぇよ……」
「泣くなよ。きみに泣かれると僕はどうしていいか判らなくなる」
そっと近付き渋谷の身体全てを抱き締める。小刻みに震えていた肩がビクッと硬直した。
僕はこんなに怯えさせるような事をしてしまったのだろうか?
「渋谷……僕の事嫌いになった?」
不安に駆られ耳元に囁き尋ねた。首は小さく横に振られホッと息を吐く。
「じゃあ、僕とするのが嫌になった?」
また首を横に振る。
選択肢が次々と消え、安心と同時に得体の知れない恐怖が襲う。
「じゃあ何が嫌だったの? 教えて?」
切実に言葉を請う。原因の判らないままギクシャクするのは嫌なんだ。
こめかみに唇を押し当て髪を撫でると、しばらくしゃくり上げていた渋谷は嗚咽を堪え呟いた。
「訊か、れる……のがっ、嫌……だ」
「え……」
「くっ……気持、ち……良いか、とか……言わせ、ようと……してさ……」
再び言葉が涙に埋もれる。でも……ようやく腑に落ちた。
渋谷はセクシャルな事に関しては非常に奥手だ。
色が絡まなければ平気で口にするくせに、直接的な言葉を酷く嫌う。
そんな渋谷を判っていて言わせようとしたのは……確かに僕のミスだ。
「ごめん、渋谷……」
抱き締める腕に力を籠める。罪悪感と謝罪の気持ちで。
背中に渋谷の腕が回されると、受け入れられた気がして目の奥がジワリと熱くなった。
「ごめんね。……でもこれだけは判って。僕は不安なんだ」
「……?」
僕の懺悔に渋谷が動きを止める。
言い訳に聞こえるかもしれない。けど、偽りのない本当の気持ちだから。
「渋谷もちゃんと気持ち良くなってるのか、僕だけが一方的に気持ち良くなってるんじゃないのか、ってさ」
「そん、なの……おれの反応見れば……判んだろ?」
「そう、そうかもしれないね。でも……男の身体ってのは、刺激すれば反応してしまうものだからね……」
望まない性交がどんなに虚しいものか、僕は知っているから。
僕自身の事じゃないけど、記憶として、魂に刻まれているから。
「おれは、嫌なヤツに……抱かれたり、なんか……」
「うん、そうだね……だから……ごめん」
その言葉だけで充分だ。
きみは信頼している者に嘘は吐かない。そして僕はきみに信頼されていると、そう思うから。
「渋谷、続き……するよ」
それでも拒まれる恐怖から声が掠れる。
背中に触れていた手をそっと滑らせ下ろしていく。渋谷の身体がビクンと跳ね、回されていた腕に力が籠る。
そして小さく、しかしはっきりと頷いた。
それだけで、充分だ。