小説(2冊目)
□花の気まぐれ
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「渋谷、頭に葉っぱ付いてるぞ」
スポーツ飲料の缶を傾ける渋谷の艶やかな黒髪に枯葉が絡んでいた。
声を掛けるとその本人は反射的に視線を上に向け見当違いの場所を突付く。
キリがないなと苦笑して僕は渋谷の頭に手を伸ばした。
学校からの帰り道、僕と渋谷はいつもの如く待ち合わせ、今は公園のベンチに隣り合い座っていた。
辺りの木々はすっかり赤く染まっており、皮膚を撫でる空気も多少冷たい。
先程木の下を通った時に強い風が吹いていたからその時にでも絡んだんだろうね。
指先に生命を失った葉の硬さと空気に揺れる髪の柔らかさが触れた。一気に払ってしまうのも惜しい気がしてスッと手を離し全体を見渡す。
意外と、悪くない。
「何ジロジロ見てんだ、村田?」
手を止めた僕を訝しんで渋谷が眉を寄せる。その表情が何だか不貞腐れた子供みたいで可笑しくて、僕はもう1度笑って頭の枯葉を取ってやった。
「うーん……葉っぱも悪くないけど、渋谷にはやっぱ花の方が似合うよねー」
「何の話だ」
摘んだ葉を渋谷の顔の前で翳し小首を傾げると、渋谷はキョトンと瞬きを繰り返す。僕はその鼻先に葉を突きつけた。
「聞いたよー、フォンビーレフェルト卿と一緒に薔薇を髪に挿して遊んでたって」
「それはおれが遊ばれてただけ、っていうか何で村田がんな事知ってんの!?」
「チッチッ、正義戦隊ダイケンジャー様に死角なし、だよ」
壁にミミアリー障子にメアリーだね。
「戦隊って村田1人じゃん」
特に反論出来ない渋谷は突きつけられていた枯葉を爪先で弾く。拗ねたように口を尖らせてどうでもいい箇所にツッコミを入れた。