小説(2冊目)

□どんな物より甘くきみと
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 村田と一緒に初詣に出掛け、その帰りに村田の住むマンションに寄った。
 リビングのソファに手持ち無沙汰で座っているとエアコンの作動音だけが耳につく。
 大分暖房が効いてきたので上着を脱ぐと、キッチンに入っていた村田がトレイを持って戻ってくる。
 その上に載っていたのは白い液体の入った湯飲みが2つ。
 甘い香りが湯気と共にふわりと漂ってきた。
「ほい渋谷、甘酒だよー」
 受け取った湯飲みから伝わる甘酒の熱が冷えていた手の平と指先を温めていく。
 息を吹きかけて1口飲むと思ったより熱かった液体が喉を通り、胸の辺りにじんわりと広がった。
「あのさ、これって村田が作ったの?」
「そ、酒粕溶かしてね」
 甘酒はおふくろもたまに作ってくれるけど、大抵鍋いっぱいになり数日間は残っている。少人数家庭のカレーの如く。
 この休みの間しょっちゅうここには遊びに来ているが村田のおふくろさんや親父さんが帰ってきたという話は聞かないし、ほぼ1人暮らし状態の村田には量が多すぎんじゃないのか?
「どのくらい作ったんだ?」
「んー、結構いっぱいある、かな?」
「それ1人で飲む気?」
「渋谷も付き合ってくれるだろ?」
 当然の事だと言うようにニコリと笑った。おれも飲む事前提だったのか。
 村田の中ではおれがここに遊びに来るって事が当たり前になってるんだな。おれと2人で一緒にいる事が。
 どうしよう、ちょっと嬉しいかもしれない。
「どうしたの渋谷? 顔赤いよ」
「何もねーよ」
 不思議そうに顔を近付けられて更に顔が熱くなる。顔を背けて甘酒をまた1口呷ると、村田は自分の持っていた湯飲みをテーブルに置いた。
 おれより体温の低い手が頬に触れ顔の向きを変えられる。目が合うと村田はふわりと微笑んで唇を重ねてきた。
「ん……ふ、ぅ……っ」
 口腔を探られる感触に流されかけて手にある湯飲みの存在を思い出す。ヤバイ、零れるって!
「んー! ……ぷはっ、アホ! 甘酒零れんだろ!」
 空いた手で無理矢理村田の顔を引き剥がすとキョトンと1つ瞬きをする。その後悪びれた様子もなく笑った。
「ごめんごめん、渋谷がすっごく色っぽい顔してたからさ」
「誰がだ誰が!」
「だから、渋谷が」
 何でこいつは恥ずかし気もなくこんな事が言えるんだろうか。
 眉を顰めると笑みを艶っぽいものに変えておれの唇を指先でなぞる。くすぐったいようなもどかしいような感覚に、不覚にも身体がピクッと震えた。
「ちょっ、村田……」
「しようよ、渋谷」
 持っていた湯飲みを奪われテーブルに置かれる。ゆっくりとソファに押し倒されて、おれは支えを求め村田の肩を掴んだ。
「ふ……んは……あっ」
 再びキスをされて身体が甘く痺れる。口の中を這い回っていた舌がふと動きを止め唇が離れていく。
 村田の顔は耳元に近付いて、そっと吐息がくすぐった。
「好きだよ……」
「や! やめ……っ」
 おれ、耳弱いんだよ。囁かれただけで背筋がゾクゾクする。
 それを知っていて村田はなおも耳朶を甘噛みし、中に舌を入れてくる。
 水音を伴って耳を弄られる感触と自分の下肢が緩く勃ち上がっていく感覚が恥ずかしくて本気で泣きたくなった。
「やめっ、村田、もうヤダ……!」
「感じてるくせに」
 口調は意地悪いが耳から離れ唇に戻ってくる。 少しだけホッとしておれは入ってきた舌に応えた。
 舌が絡み合っている間にも村田の手はじわじわと身体の上を這い回る。服の上から胸を撫で、へそをくすぐられて身体中の筋肉がピクピクと痙攣する。
 やがて既に反応を示している下肢に辿り着き、ズボン越しにやんわりとそこを握った。
「あ、ぁっ……」
「もう勃ってる。ホントに耳弱いんだねぇ」
 強弱をつけて揉み込みながらクスクスと笑い羞恥を煽る。触れられているそこがジンジンと疼く。
 先走りが下着に染みていくのが自分で判って居たたまれない。
「も、離せよ!」
 堪らず村田の身体を押し退けるように腕を突っぱね、涙の滲む目で睨みつけた。
 意思とは関係なく反応していく身体が恥ずかしくて、面白がるような響きが悔しくて。
 村田は驚いたように微かに目を瞠り、その後申し訳なさそうに眉を寄せた。
「ごめん、もう言わないから……触らせて、ね?」
 宥めるようにおれの頬を撫で、また口付けられる。何度も啄んでは離れていく唇に、おれは身体の力を抜き熱の籠った吐息を零した。
 結局、村田の事許しちゃうんだよな……おれ。
 おずおずと村田の胸辺りに縋りつくと、その手を覆って嬉しそうに笑う。村田はそのまま反対側の手でおれのズボンのファスナーを下げた。
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