小説(2冊目)

□どんな物より甘くきみと
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 ゆっくりとくつろげられていく音がやけに生々しく耳にまとわり付く。村田の手に取り出され、直接触れられたそこが喜びに打ち震える。
「や、出る……もう出るぅ……っ」
「いいよ、出して」
「や、あ、あぁああ!」
 そっと握られただけでも堪らなくて、先端を指先で擦られたおれは大して我慢も出来ずに熱を吐き出した。
 放出の余韻にボーッとしたまま酸素の供給を繰り返す。脱力した身体をソファに投げ出し目を閉じると、自分の浅い呼吸音が脳に響く。
 乱れた息が整う前に深く口付けられ舌を擦られて、下腹辺りがピリッと痺れた。
「ふ……ん、んんっ……」
「渋谷、力抜いてて」
 唇が触れるか触れないかの距離で囁かれうっすらと目を開けてみる。目が合うと村田は柔らかく微笑み、おれのズボンと下着を脱がせ脚を押し開く。
 その体勢が恥ずかしいと思うより先に村田の指が後孔に触れ、するりと中に入ってきた。
 痛みがなかったのは、おれの出したもので指を濡らしていたからだろう。
「あ……はぁ……」
 中を広げるようにゆっくりと指が蠢き、内壁を擦られる度に甘い刺激を感じ取り勝手に腰が揺れる。指が増えると圧迫感と共に快感が強くなり、疼きが全身を支配する。
 指先、足の先までが痛む程に疼いて苦しくて、おれは助けを求めるように村田の首に腕を回す。
「村田……も、ぅ……もう……」
「……うん」
 涙で霞む視界の中で村田が泣き出しそうな顔をした。
 しかしそれは一瞬で笑みに変わり唇をそっと押し付けられる。唇が離れ指を引き抜かれて、代わりに村田自身が入ってきた。
「は、あ、あぁ……」
 少しずつ、隙間なくおれの中を村田が埋めていく。押し広げられていく圧迫感と背筋をせり上がってくる快感を村田にしがみ付く事で何とか堪える。
 全てを納め、村田が今まで詰めていた息を大きく吐くと、耳に息が掛かって身体がビクッと震えた。
「辛い?」
 心配そうにおれの顔を覗き込む村田にギクシャクと首を振って見せる。
 辛くないと言ったら嘘になるけど……不安には、させたくない。
 思うように動かない腕で村田の頭を引き寄せると、フッと目元を緩めて口付けられる。
 そしてゆっくりと動き始めた。
「あ、はぁ……あ、んっ……!」
 引き抜かれる感覚にゾクゾクと背筋が震え、突き上げられる感覚に身体がビクンと跳ねる。
「は、っく……渋谷……」
 普段は飄々とした村田の余裕のない息遣いが嬉しい。
 融けてしまいそうな程の熱さを抱き締め合って、おれ達は頂点に昇り詰めた。
「イ、くよ……渋谷……っ」
「おれ、も……イ、あ、あぁああ!」



 倦怠感の残る身体をソファの上に起こし溜め息を吐く。喉の奥が貼り付いているような気がして、テーブルに載っている飲みかけの甘酒を1口呷った。
「……甘い」
 思わず顔を顰める。喉は潤うが口中に広がる甘さは何とも言えない。
「そりゃ激しい運動の後に甘酒は向かないだろー」
 キッチンに入っていた村田が苦笑いで戻ってきた。手にしていたガラスコップを手渡してくれる。
 コップを傾けると無味無臭の透明な液体が、すうっと身体の中に染み渡っていった。
「運動させたのはお前だろ」
「だから水持ってきてやったんじゃん」
「……はいはい」
 村田の反論を適当に受け流して空になったコップを湯飲みの横に置く。ドサッとソファにふんぞり返ってまた溜め息を吐いた。
 マジでだりぃ。
「渋谷ー、そんな無防備にしてるとまた襲っちゃうぞー?」
 村田がニヤニヤと笑って、おれの背後から顎を取り顔を覗き込んでくる。
 すっぽんぽんのままの下半身を指しているのだろうが、正直疲れ果てて恥ずかしいという感情もどこかへ飛んでいた。
「……はいはい」
「渋谷酷い! ボケ潰し!」
 お前は芸人か。
 ショックを受けたように嘆く村田を半眼で見上げつつ村田の頬に右手を伸ばす。
 柔らかい皮膚に触れると、村田がクスッと笑って顔を近付け唇を重ねてきた。
 舌が絡んで生まれた甘さが口の中にゆっくりと溶けていった。



end
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