小説(3冊目)

□月夜ニ狂フ
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 僕達は呆然と顔を見合わせた。
「……どうすんの、この状態」
「……さあ?」
「城に帰ったら怒られるよ」
「とりあえず着替え貸してくれ」
「そりゃ貸すよ、風邪でもひかれたら大変だからね」
 溜め息を吐きながら顔に張り付いた前髪を掻き上げて、不覚にも渋谷に目を奪われた。シャツのボタンを外し、その隙間から白い肌が覗いている。
 濡れたシャツから肌が透け、薄暗い月明かりでさえもその色を映し出す。
 知らず唾液を飲み込んで、その音に自分で驚いた。突然動きを止めた僕を訝しみ渋谷が顔を覗き込んでくる。
 濡れて光る唇から目が離せない。
「村田?」
 月の光というのはこんなにも人を魅惑的に見せる物なのか。いや、ただ相手が渋谷だからなのかも知れない。
 意識してしまうと途端に鼓動が強く胸を叩き始める。眉を顰めた渋谷に手を伸ばし腕を掴んで引き寄せた。
 いつもより少し冷えた唇を重ねて舌で合わせ目をなぞる。そのまま口中を探ると抱き締めた身体がピクンと跳ねた。
「はぁっ、村田、こんなとこで……」
 息を継ぐために唇を離すと熱い吐息が零れる。一緒に叱責の言葉も聞こえてきて思わず苦笑した。
「渋谷……したい」
 何を、なんて言う間でもない。意味を取り違える事なく渋谷は目を見開いて硬直している。
 許しを請うために何度もキスをして、熱くなり始めた肌にそっと手を這わせた。
 肌蹴られた場所から挿し入れてシャツを肩から外す。喉元に口付けて舌を押し付けると首を反らせて切なげな声を上げる。
 崩れそうになった渋谷の背中を支えて僕は耳元に囁いた。
「満月のせいだよ、渋谷。全部月のせいにしてしまえば良い」
「え……」
「月には人を狂わせる力があるって言うだろ。ここで流されても誰も咎めたりしないよ」
 肌を侵しながら誘惑する。良識を捨てられない渋谷に免罪符を与える様に。
 すっかり熟れた唇を食んで目を合わせると、渋谷は氷が解ける様にうっとりと微笑んだ。
「なら……いいや」
 淫靡にさえ見える表情で僕を誘う。導かれるままに口付けて快感を貪る。
 纏わり付く様な空気の中に渋谷の喘ぎが溶けていく。
 溢れた雫が水面に落ちて、たわんでいた月がクシャリと潰れた。



end
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