Short小説
□蒼願。
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新しい家。
新しい家族。
待っていた幸せとは違い、それは地獄へと放り投げられた始まりだった。
それは、9年前に遡る……
この世に生まれた私は、親に捨てられ、施設で育った。
捨てられた理由さえもわからない。
分かるのは、母親らしき人物が施設に訪れ、先生に「よろしくお願いします」と一言だけ会話をし、赤子を託すや否や、引き止める声すら聞かず、居なくなったという。
残された、手掛かりは1つ、その赤子の手に小さく握られていた紙があった。
そこには、沙耶-さや-とだけ。
書いて残されてあった。
それだけが親の情報。
そして、初めて目を開けてビックリしたと、よく先生に言われていた。
私は生まれつき、黒髪に瞳が青だった為、施設の中でも異形で、施設に訪れる人に気味悪がられていた。
しかし、暖かい先生や仲良くなった友達と過ごすのは、毎日が本当に夢のようで、幸せだった。
肩すれすれの髪、前髪は揃えて。
年は13歳になった、ある日。
先生に呼び出され、部屋で初めて目にするおじさんが居た。
ワインレッドのスーツ、40歳前後の優しそうなおじさん。
俯く私に目に入ったのは金の腕時計に杖。
私をみて、目を細め笑った。