その他CP
□キスがしたい
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近づいてしまう
カリカリ
「う〜ん・・・。」
ぐしゃぐしゃ
カサッ
私が投げた失敗作の原稿は見事にゴミ箱を外して、床に落ちてしまったようだ。
見もせずに適当に投げたのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
後ろから前へと意識を移す。
私の目の前には真っ白な原稿用紙が机のど真ん中で尊大に鎮座していた。
ため息をつき、気分転換にと床に散らばっているであろう紙を拾おうと、私は後を振り返った。
レーイの顔が目の前に現れた。
「おわっ!」
私は気の抜けた驚き声を上げて、のけ反ってしまった。
先程まで、いつもの定位置にいた友人が、いつの間にか私の背後に立っていたのだ。
「・・・どうしたんだい?」
「いや・・・何でもない。」
尋ねると、彼は何かを言いかけたが、なぜか不機嫌そうな顔をし、定位置へと戻っていった。
とりあえず私は立ち上がり、散らばった紙を拾い、ゴミ箱に捨て、再び机に向かった。
しかし、今度はまったく集中が出来ない。
彼の気配が不意に背後に感じ、私はまた振り返った。
再び、彼の顔があった。
「・・・いったい何なんだい?」
私が呆れた様に言うと、彼は難しい顔をして語りだした。
「ジレンマさ。君の小説を楽しみにしている読者としては、早く小説を完成させてほしいと思うんだ。なら、君の邪魔をする訳にはいかないだろう?だから、僕は黙って、君を見守っているんだが・・・。」
「だが?」
「・・・。」
先を促すと、彼は珍しく、言葉を詰まらせた。
そして、数秒後、彼はポツリと言った。
「今は、2人っきりなんだ。」
「うん?そうだね。」
「・・・・・・本当に君は鈍いな。」
彼はため息をつくと、不意に私を逃がさないとするように、私を両腕で挟むように机に手をついた。
「まぁ、いいかな。君は集中力を明らかに欠いていて、今日の執筆は進まないようだから。」
「あのね、誰の所為だと、」
彼は私を黙らせるように、しかし、優しくキスをしてきた。
その行動で、ようやく私は理解した。
「ああ、構ってほしかったのか。」
「・・・君、今日は覚悟をした方がいいんじゃないかな。」
どうやら私の発言は彼を怒らせてしまったらしい。
「何を、覚悟すればいいのかな?」
分かっていながらも、私は彼に尋ねた。
「本当に今日はもう執筆ができない事と、今日は眠れない事、だよ。」
私は苦笑すると、彼の首へと腕を回した。
「お手柔らかに。」