夢小説

□【初めての元旦】
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【初めての元日 其の1】

日付が変わり、今日から新しい年が始まる…
この時代に来て初めて迎える元日。

年末、お得意先に挨拶回りを済ませて正月を迎える準備も整え、あとは寝て待てばいいだけだった。

でも…

毎年元日には、家族で初日の出を拝んでから初詣りに行くのが我が家の恒例行事のようなものだった。

「はぁ…」

自分の部屋で布団を深く被って横になりながら溜息をつく。

(今頃お父さんとお母さんはどうしてるんだろう…
クラスの友達は…先生は…)

元の時代にいる人達の顔を順々に思い浮かべ、懐かしい風景などを瞼の裏に思い描いていたら、自然と涙が零れ落ちた。

眠れない長い夜…気が付いたら、先走りして朝を告げる鳥達の囀りが聴こえてきた。

もう一度深い溜息をつくと、眠りにつくのを諦めて布団をバサッと捲り、行燈に小さく明かりを点した。
そしてサッと着物を纏うと、静寂に包まれた置屋をそっと後にした。

こっそりと島原大門を飛び越え向かった先は、朝靄を被って静まり返っている鴨川の辺(ほとり)。

(ここだったら…)

現代にいた時のように初日の出を拝みたくてこの場所まで足を運んだのだった。

(日の出を見たら、秋斉さん達が起きる前に戻らないと…)

薄暗い河原にストンと腰を下ろし、日の出をひたすら待つことにした。

…と、その時。

ジャリ…と小石を踏みながら足音が近付いて来た。

「…?!」

驚いて座ったままパッと振り向くと、ぼんやりと靄の中から揺れる人影が顕れた。

「〜〜はん?」
「…俊太郎さま?」

二人の声が重なり、静穏な河原に谺(こだま)する。
驚いた鳥がパタパタと羽根を羽ばたかせ、眠そうな躯を慌てて持ち上げて暁の空へ飛び去っていく。

まさかこんな所で出逢うとは思いもしなかった。
先程までの落ち込んでいた気持ちが一気に吹き飛び、喜びに瞳を輝かせ、自分からも彼に歩み寄る。
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