夢小説

□【初めてのお正月】
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【初めてのお正月 第2話】

「秋斉さん、最後はどのお屋敷ですか?」

私の質問にピタリと足を止め、スッと舞のような綺麗な所作で肘を伸ばし、手に握っている扇子の先で目の前の門を指し示した。

「此処や」

丁度その時、門の中から浅葱色の羽織りを翻しながら、颯爽と長身の二人が出て来た。

「あ、藍屋さんに〜〜さんじゃないですか」

「珍しいな…屯所まで出向いて来るとは」

「土方はんに沖田はん、これは丁度ええ所に…年初めの御挨拶にきおした
いつも藍屋を御贔屓にしてくれはっておおきに
今年もよろしゅうお頼申します」

「今年もよろしくお願いします」

私も秋斉さんに揃えるように、深々と頭を下げた。

「こちらこそよろしくお願いしますね」

「ああ、よろしくな」

挨拶を交わすと、持っていた風呂敷包みを開けて箱を渡した。

「あのこれ、良かったら皆さんで食べて下さいね」

「おう、わざわざありがとよ」

土方さんが菓子折りを受け取った後、突然指先で私の顎を捉えクィと持ち上げた。

「……っ…?!」

唖然として見上げると、いつもは殆ど見せることのない妖しい輝きを孕んだ穏やかな瞳でじっと見つめられた。
僅かに緩ませた目許は、心なしかうっすらと紅がさしているようにも見えた。
ドキドキと高鳴る心音を何とか落ち着かせようと深めの呼吸を繰り返してみたが、ますます体温が上がるばかりだった。

「……ひっ、土方さん……?」

そんな私の心境にはお構いなしに、端正な顔をスッと近寄らせる。
唇に甘美な息が掛かり、思わず反射的に瞼をギュッと綴じる。

「……馬子にも衣装、だな」

少しの間の後、抑えられていた顎から手が離れ、私の耳にからかうような呟きが届いた。

「……っ、ひどい、土方さん…」

「そうですよ、こんな豪華な振袖姿が似合う〜〜さんに馬子だなんて……失礼ですよ」

私を貶(けな)す土方さんに抗議するように、頬を膨らませて沖田さんが横から割り込んできた。

少し離れた所に一人…秋斉さんが呆れ顔でポツリと独り言を言っていた。

「……見た目は吉野大夫に瓜二つやのに、相変わらず鈍やな……」

その声は誰の耳にも届く事なく、踏み固められた白銀の地面にスッと消え入るように吸い込まれていった。

「新年早々、〜〜さんにお会い出来て嬉しいです」

満面の笑みを浮かべて、真水のように澄んだ美しい瞳が直ぐ近くから私を捉えて離さない。
少年のように頬を紅く染めながらも、繊細な細長い指先で私のこめかみから頬にかけてスーッとなぞるように優しく撫でた。

「…沖田さん……」

「すごく綺麗ですよ……」

また顔にじわりと熱が集まって来るのを感じた。

「なになに、みんな集まって…
〜〜の新しい振袖姿のお披露目かい?」

その時、晴天のようにからっとした爽やかな声が何処からか私達の傍に近づいて来た。


《第3話へ続く》
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