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□エクシードランド 後編
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「あんのエクシード…」
「このビニールってそのためにあったんだね…」

ガジルが姫にビニールを被せ、間一髪レビィは無事だった。
一方でガジルは全身びしょ濡れ。ベタ、と張り付いた前髪を片手でかき上げる。
濃い黒髪から雫が伝う。その横顔を見てレビィは顔を赤くした。
視線に気が付いたガジルの顔が姫の方を向く。慌てて顔を背けてカバンを開けた。

「は、ハンカチ…あ、フロッシュに渡したままだ…」
「訓練で雨に打たれることもありますから。これくらいどうってことねぇです。お気遣いありがとうございます」

束ねた髪を絞ると吸った水がぼたぼたと落ちていく。
額のバンダナをするりと取ると、彼は慣れた手つきで髪を後ろに縛った。

「休んでいる暇はありませんよ、ハイ!ちゃんと万歩計は振っているんですか?」

突然、赤茶色のエクシードが乗り込んできて元気よく声を張り上げた。
すっかり万歩計の存在を忘れていたふたりはあ、と声を重ねる。
その様子を見てエクシードが肩を竦めてやれやれと頭を振った。

「これだからニンゲンは…所詮、3歩歩いたら忘れる種族ですね」
「あァ?喧嘩売ってんのかコノヤロウ」
「まさか。僕は暴力は好みませんよ。僕が得意とするのはココ、頭脳です」

ピッと可愛らしい手が頭を指さす。

「ようこそ、レクターの迷宮へ。ここでは僕のなぞなぞに答えて頂きます。正解すれば前に進む扉が開きますし、間違えればレギオンがぐるぐる回転してみなさんの目を回します。回されすぎて乗り物酔いにならないことを祈っていますよ、ハイ」
「がんばろ、ガジルッ」
「あんまり頭使うのは得意じゃねぇですけどね」

グッと拳を握りしめる姫にガジルは頭を掻いて答える。
レクターはにやりと笑うと、腰に手を当てコホン、と咳払いをした。

「では行きますよ…コーヒーカップの取っ手はどちら側についている?≠ナしょうか」
「外側」

ピンポン。間髪入れず答えたレビィに軽やかな音が鳴り、正解の扉が開く。

「おや、まぐれですかね。イチロウさんとジロウさんは同じ生年月日で両親も同じなのに双子ではありません≠ネぜ?」
「三つ子なんじゃない?」

ピンポン。レギオンが進む。余裕の表情が消えた。

「やりますね…イチゴとバナナとキウイを乗せた馬車が走っています。カーブを曲がったときに落ちたのは♂ス?」
「スピード落とすかな」

ピンポン。小さな体が震え、額には汗が浮いている。

「ならこれは!?コショウの瓶を振りすぎたらでてきたもの≠ヘ?!」
「くしゃみ出そう」

ピンポン。地団太を踏んで、レクターはレビィをキッと睨みつける。

「この僕にとっておきを出させるとは!最後です!東洋文字に『幸』という漢字がありますが、これに直線2本を足したら何という漢字になる?≠アれならどうです!」
「『南』という漢字!」

ピンポンピンポーン!
軽やかな音が続け様に鳴り、クリアと書かれた扉が開く。
レクターががっくりと膝をついた。

「ぼ、僕が完敗するなんて…」
「…アンタすげぇな」
「え?全部簡単だったと思うけど…?」

指を頬に当てて、うーん、と小首を傾げている。
可愛らしい容姿に明晰な頭脳。逆らったら怖ぇな、とガジルは心の中で呟いた。
立ち上がったレクターがよろよろとレギオンを降りていく。

「き、今日はこれくらいで勘弁してあげます!これだからニンゲンは…ニンゲンはぁぁ〜!」

泣きながら捨て台詞を吐いてレクターが走っていく。
呆然とその姿を見ていたふたりの耳に、聞こえてきたのは前方からの叫び声。

「やけに悲鳴が聞こえるな」
「もしかしてまたお化け屋敷かな…」

ぶるっとレビィが身震いをする。
先ほど怖い目にあったばかりなのだ。仕方ないだろう。
ガジルは華奢な体を引き寄せると片手で優しく抱きしめた。

「今度は絶対離しませんから。安心してください」
「ガジル…」

うん、と答えて頭をその逞しい胸に預ける。
しかし予想に反して見えてきたのは光り軽やかな音楽が流れる場所。
バッと凄い早さで乗り込んできたエクシードが華麗なポーズを決めている。
放たれるキラキラなオーラにそぐわない、太り気味で形容し難い個性的な顔。

「よく来たね、メェーン!ここはニチヤによるミンナのためのニチヤの世界だ、メェーン!沢山のニチヤが君たちを迎えてくれるまさに夢の世界だメェーン!」

メェーン!と大合唱しながらそこら中のニチヤがギラリとこちらを向いた。
その不気味さにふたりの顔からさぁっと血の気が引いていく。

「イッツア・ニチヤ・ワアルドォ!お楽しみあれメェーン!」
「きゃああ!お化けよりいやぁぁ!!!」
「出せー!こっから出せええぇぇ!!!」
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