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□エクシードランド 後編
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「最後のが一番酷かったな…」
「でも手を振り回したおかげで歩数貯まって、いい景品貰えたね!」

エドラスを楽しんでいる間にすっかり日は傾いて、見事な夕焼けが空を染めていた。
げっそりしているガジルの隣でレビィがはしゃいでいる。
全く同じ歩数を記録するという奇跡的な事を起こしたふたりに贈られたのは特別賞のエクシードグッズ。
レビィの手にあるのはパンサーの顔が付いたペアのチェーンネックレスだった。
裏にはパンサーの直筆でIRON≠ニサインが書かれている

「ガジル、かがんでかがんで!」

ニコニコと催促する姫の言う通りにかがむと後ろからさげられるネックレス。
着け終わるとレビィはガジルの前にタタッと走り、くるりと後ろを向いた。

「私も、着けて着けて!」
「はぁ?!」

こんな往来でそんな恋人同士のような真似ができるか。
しかし、あまりにも嬉しそうな姫を目の前にそんな事言えるはずもなく。
ガジルは大人しくそれに従うとネックレスを受け取り失礼します、と首にさげる。
白いうなじが、少女のそれとは思えないほど艶めかしくて、ガジルはゴクリと喉を鳴らした。
出来るだけ見ないように手早くつけてしまうと目線を逸らして顔を拭う。

「やったぁ!お揃い!ガジルとお揃いだよ!」

嬉しそうに姫がぴょんぴょん跳ねる。
ネックレスを手に取ると、本当に宝物を見るような瞳でうっとりとそれを見つめた。

「本当に嬉しい…大事にするからね…」

聞こえた呟きに、胸の鼓動が速くなる。
心の奥に仕舞い込んだはずの気持ちがまた、飛び出して来ようと暴れ始めた。

「レビ…」
「あ、いい匂いがする!」

タタタッとレビィが駆け出していく。
肩透かしを食らったガジルは溢れかけた心をまた奥底に仕舞い込むとその後を追った。
姫の向かっている先、大きな馬車にラッキーとマールのポップコーン屋≠ニ書いてある。
いい匂いはそこから漂ってきているようだった。

「ポップコーン、パンサーくんカップでひとつください!!」
「あい!」

ちょうどレビィの身長くらいのカウンターに手を置いて、一生懸命つま先で立っている。
その様子が実に可愛らしくて、クッと笑うとガジルは姫を抱き上げた。
中にいた青の優しそうなエクシードがまぁ、と感嘆の声を上げ、髭を生やした白のエクシードが忌々しそうに表情を歪める。

「かーっ!可愛いお嬢ちゃんじゃねぇかっ!そのデカブツは彼氏か?かーっ!」
「なっ?!」
「そうです」

狼狽えるガジルに対してレビィはしれっと笑顔で答える。
もの言いたげな視線を送ると、べ、と小さく舌がのぞいた。

「あら、いいわねぇ…青春だわ」
「かーっ!羨ましい彼氏だな!しょうがねぇ大盛りにしてやるよ!さっさと幸せになりやがれ、かーっ!」
「ありがとうございます!」

やがて出てきたのはレビィが抱えるほどのカップに入ったポップコーン。
フタはこげ茶色のパンサーをあしらってあり、口の所が開閉するようになっている。

「おいしい〜!」
「良かったですね」

テーブル席に腰かけてパクパク頬張りながら、レビィは幸せそうに声を上げた。
泣いている時は冷や冷やしたが、もうすっかり元気になったようだ。
ガジルはほっと胸を撫でおろす。その目の前に、白い何かが差し出された。

「?」
「ガジルも食べて。はい、あ〜ん」
「?!い、いやそれは流石に!」

ダメです、と手を振ると小さな頬がみるみる膨れた。
いつもの我が儘を言うときの顔と上目遣い。う、と自分の言葉が詰まったのが分かる。

「私のしたいこと全部やらせてくれるんでしょ?」
「そーだが、あ〜んがしてぇことなのかよ?!」
「うん」

ハッキリ答えられてはもう逃げ場がなくなってしまって、ガジルは観念したように口を開ける。

「…目も開けなさいよ」
「火急的非常事態における俺の精神状態を良好に保つための応急措置です。これ以上は勘弁してください」
「何よそれー」

ポップコーンが口に入れられたのを見計らって慎重に食む。
と、それとは違う柔らかいものに歯が当たった。

「ちょ、ちょっとガジル!指!指まで食べないでっ」
「!!??」

慌てて口を開けると姫も手をひっこめた。幸い、噛んではいなかったのでレビィの綺麗な指は無事だ。

「す、すみませんっ」
「い、いや私も早く手を引かなかったのが悪いからっ」

ガジルは顔を真っ赤にするとゴン、と音がするほど頭をテーブルに擦り付ける。
レビィも頬を紅潮させてわたわたと手を振った。
お互い、どうしていいか分からないままシン、と時間だけが過ぎていく。
時刻を知らせる鐘が響く。我に返ったレビィは慌てて立ち上がった。

「い、行こう!次の所!」

ガジルの手を力一杯引いて歩き出す。繋いだ手が火のように熱い。
それが自分の熱なのか彼の熱なのか、レビィには分からなかった。
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