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□おてんば姫と黒い騎士
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チチチチチ…

さえずりが聞こえる

渡り廊下を歩きながら、ガジルは遊ぶ小鳥たちを目で追っていた。

天気は快晴。今日も国は平和そうだ。



…ダダダダダダ

その穏やかな空気にそぐわない足音が鋭い耳に聞こえてくる。

前言撤回、彼は小さく息を吐いた。



「ガージールーぅっ」



底抜けに明るい声が呼んだのは自分の名前。

振り向けば、楽しそうに揺れる空色が見えた。

ピンクを織り交ぜた白を基調としたローブ、その長い裾を物ともせずに走ってくる。



「行くわよっ」

「おわっ」



通り様に胸ぐらを掴まれ、引きずられるようにして一緒に走る。あらぬ方向からかかった力がピッチリ閉めてあった襟元のボタンを破壊する。黒の軍服がはだけて鎖骨が覗いた。



「レビィ姫!お待ちください!レビィ姫―!!」



アルザックの声がして、追いかけてくる姿が見えた。その遥か向こうには手当たり次第に衛兵を叱咤してこちらに向かわせているマカロフ大臣の姿。



「跳ぶわよっ」

廊下の行き止まりまで駆けていき、あえなく御用かとおもいきやレビィはダンッと大きく踏み切ってバルコニーから飛び降りる。

白と黒が宙を舞う。チラリ、と視線を走らせれば青ざめたアルザックとマカロフが見えた。仕方ねぇな、と体に力を入れてグン、と1回転すると文字通りお姫様抱っこで体勢を整える。下には騎馬の群れ、茶馬に狙いを定めると、その背に綺麗に降りて腹を蹴る。大きく嘶いて馬は城外に向かって走りだした。



「へ、閉門!閉門するんじゃあぁ!姫を絶対に外へ出すなぁぁぁ!!」



上からマカロフの怒号が聞こえる。門番たちが慌てて重い扉を押し始めた。隙間を縫えない距離ではない。速度を上げれば閉まる直前に抜けることができる。だが。



「(そう簡単にゃ、いかねぇよな)」



左手の見張り台の上に、弓兵が集まっている。門の手前で足止めするつもりだろう。万が一でも姫に当たったらどうするつもりなのだろうか。

手綱を引いて、馬の進路を右手に曲げる。衛兵が持っていた槍を通り様に拝借して壁に積み上げてある土嚢に投げる。バランスを崩したそれは、階段のように上手く散らばって彼らの前に道をつくる。速度を上げる。馬は軽々と城壁を越えて、マカロフの絶叫が辺りに木霊した。
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