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□エクシードランド 前編
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東の空がうっすら明るくなっていた。
舞踏会明けの妖精王国・マクガーデン城は、幸せな空気を纏ったまま眠りについている。
「この腰抜けがーーー!!!」
その城の兵士演習場、広い敷地の一角で。
雷のような怒号が一瞬響き渡って、消えた。
「う、うるせぇよリリー!みんなが起きちまうだろうが!!」
自身の背よりも高い位置にあるリリーの口を塞いで、慌ててガジルはあたりを見回した。
幸いその叫びを聞いたものはいなかったようで静寂に変わりはなかった。
しかし彼の渾身の力を振りほどいて、声を荒げたリリーは構わずに怒鳴り続ける。
「これが黙っていられるか!!昨日は姫様がそれはそれは固い決意で飛び出されていったというのに、貴様ときたら何もしなかっただとぉぉぉ?!これを腰抜けと言わずしてなんと言うのだ!」
嘆かわしい、とリリーは深々と重い溜息を吐いた。
妖精王国の王女、レビィ・マクガーデンは恋をしている。
相手は目の前にいる、この黒い騎士ガジル・レッドフォックス。
それは城に勤務するものみな周知の事実だった。
王家の一人娘の身分違いの恋に、大臣をはじめ頭を抱えている者ももちろんいるが…。
国王も王妃も微笑ましく見守る愛らしい姫の恋を、多くが影に日向に応援していた。
はたから見ていても、レビィの好意は明らかにこの黒い騎士に向いていて。
表には出さないにせよ、ガジルだって姫のことを想っているのは分かりきっていた。
リリーは目の前の黒い騎士を改めてまじまじと見た。
王国を守る騎士・鋼鉄部隊の隊長と副官という立場と…仕事が終われば唯一無二の親友という間柄。
贔屓目なしに見ても、姫とこの男はお似合いだと思っているのに。
男の方が煮え切らないとは情けない、とリリーは頭を振った。
「姫の手を取っただけで終わったか…まぁ、手を取っただけまだ前進か…」
「あ、いや…そのよ…」
リリーの言葉にガジルが視線を彷徨わせる。まさか、とリリーの額に青スジが立った。
「…触れても…ない」
膝から崩れ落ちるようにリリーは大地に手をついた。
がっくりと項垂れる親友に、ガジルはおろおろと狼狽える。
「何をやっていたんだ、馬鹿者おぉぉぉぉぉ!!!」
朝日が射すのと一緒に、リリーの絶叫が響き渡った。