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□エクシードランド 後編
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不意に押さえつけられていた力が緩み、離れていく。
恐る恐る目を開けると、黒い騎士が男達の後ろに立っていた。
「…テメェら…一体誰に手ェだしてるのか分かってんだろうなァ…?」
両手でそれぞれの頭を掴んで持ち上げている顔は怒りの形相だ。
レビィはへなへなとその場にへたり込んだ。
「な、おま…っ」
混乱した男が何か言い終わる前に、広げた両手を閉じるようにして双方の頭を打ち付ける。
ガンッと景気の良い音がして男達は気絶した。
まるでそこらへんに落ちていた石のようにそれをポイッと投げ捨てて、ガジルは姫の前に急ぐ。
「レビィっ無事か?!」
「ガ…ジル…」
彼の名を呼びながら、レビィは弱々しく手を伸ばす。
華奢な身体ごとぐいっと引き寄せるとガジルは彼女をぎゅう、と抱きしめた。
「良かった…何もされてねぇな?」
「ガジル…ガジルぅ〜」
大粒の涙がぼろぼろ溢れていく。
小さな身体を抱き上げてあやすようにその背をポンポンと叩けば、安堵したのか一層泣き声が大きくなった。
***
「うえぇぇん」
暗がりを利用して悪巧みをしていた男達は伸びたまま警備に突き出し、お化け屋敷を後にして。
人目の少ない裏通りで見繕ったベンチに腰を下ろしたは良いものの、よほど怖かったのか一向にレビィは泣き止まない。
ガジルは姫の前に片膝で立つと目線を合わせた。
「こっち見ろ、レビィ」
「…?」
「俺の目を見て、大丈夫だから泣き止んでください」
潤んだブラウンの瞳が揺れている。
溢れていった涙を拭いて俯くと、レビィはワンピースの裾をぎゅっと握った。
「ガジル…」
「はい」
「ひぐっガジル…」
「はいはい」
「ごめんなざい…」
「は…って、あァ?」
聞こえてきた言葉に耳を疑いガジルは思わず姫を凝視した。
レビィはまた瞳に涙をいっぱいに貯め、しかしなんとか溢すまいと顔を赤くして一生懸命に耐えている。
「私がっ…約束やぶって…ガジルからっ…はなれちゃった、からっ…ふぇ、ご、ごめんな、さい…」
「…っ!」
我慢しきれなかった雫がぼろぼろと落ちていく。
しゃくり上げながら謝り続ける姫を、思わず抱きしめようとしたガジルはぐっとその衝動を押さえ、ゆっくりと時間をかけてその手に自分のそれを重ねた。
「…レビィ?」
「…はい…」
怒られる、と思っているのだろう。目を瞑って顔を上げない姫は肩を震わせていた。
「遊ぶぞ!」
「ふぇ?わわっ」
細い手首を掴んで姫を引き上げる。
レビィはたたらを踏んでガジルの胸にぼすっとぶつかった。
「罰ゲームだからな。アンタが遊びてぇとこ全部付き合ってやんよ」
「へ?」
――逃げたら、ガジル罰ゲームだからねっ
お化け屋敷に入る前に行った言葉を思い出し、レビィは目を丸くした。
「で、でもっ逃げたの、私…っ」
「逃げた方が罰とは言ってねぇ。ハッキリ言ったのはガジル罰ゲーム≠セけだ」
困惑する姫にギヒッと笑い、ガジルは手を引いて歩きだした。