novel
□その雨は、微かに背中を押した。
1ページ/3ページ
時には、しとしと。
そして時には、ざあざあと音を立てて地面を濡らすそれ。
雨が降ると、どことなく気分が沈んでしまうような気がする。
ジメジメした空気が肌に纏わりついて、ぺたぺたするのも少し苦手だ。
少し前までは、レビィもそう思っていた。
少し大きい粒の雨が降る今日、レビィは買ったばかりの新しい傘を手に取って女子寮を出た。
それをぱっと差すと、内側には鮮やかな空模様が広がる。
傘の中が明るく華やかになり気分も上がるので、この傘を買ってからは少し雨の日が楽しみになったのだった。
濡れた地面を、水溜りに注意して歩く。
その足取りはギルドへ向かっていた。
いつもの見慣れた入り口に、これもまた見慣れた背の高い黒髪。
ほとんど毎日会っているはずなのに、その姿に心臓が高鳴る。
速足で近づくと、先に彼の相棒がこちらに気づいて手を振ってくれた。
「ガジル!リリー!おはよう」
「オウ」
「おはよう、レビィ」
最近はこの三人で仕事に行くことも少なくない。
今日も、朝からギルドに集合して仕事に行く約束をしていたのだった。
全員が揃ったところで歩き出し、ふと気づく。
「ガジル、傘は?」
見ればリリーは体のサイズに合った小さな傘を差しているので、忘れたわけではなさそうだが。
「んなもんいらねェよ」
そう言いながら、ガジルは雨粒を少し鬱陶しそうに睨む。
曰く、傘を差すのが面倒で邪魔らしい。
今のところはまだ雨も弱いので、確かに傘が無くても乗り切れそうではあるが。
空を見上げるとどんよりと分厚い雲が広がっていて、雨が強くなることはあっても止むことはなさそうだ。
***
朝から電車で仕事に向かい、終わったのは夕方だった。
今まで室内にいたので外の天気はわからなかったのだが、朝よりも随分粒の大きい雨がざあざあと地面を鳴らしている。
「チッ」
隣から舌打ちが聞こえた。
こんなに酷くなるとは思っていなかったのだろう。