novel
□言葉
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「あっ、え!?ちょっと、レビィちゃん!?」
ものすごい速さですぐ横を走り抜けて行った親友に、ルーシィは驚きと戸惑いを隠せない。
その目線が当たり前のようにガジルに止まった。
「ガジル!レビィちゃんに何言ったのよ」
「…別に。…女ってのはそんなに言葉にしねェと納得いかねぇのかよ」
「はぁ。バカね、ガジルみたいに絶対に言葉にしなさそうな人からたまに言われるのって、女の子にとってはすっごく嬉しいんだから」
「…そんなもんか?」
「だって、自分だけが特別ってわかるじゃない?」
「チッ、めんどくせぇ」
「とか言いつつ、ガジルも本当はレビィちゃん大好きだもんね〜」
「っ、バニーてめぇ!」
「あたしに怒ってる暇があったらレビィちゃんのとこ行ってきなさいよ!」
「…っくそ」
もっともなルーシィの言葉に、納得いかなそうなふりをしながらレビィを追いかけた。
別に、言葉にするのが嫌なわけじゃない。
単純に照れくさいだけだ。
キャラじゃねぇ、とも思う。
…でも、泣かせちまったからな。
レビィは近くの公園のベンチにいた。
もうすぐ夜になるため、人通りは少ない。
ああやって出てきてしまった手前、簡単にギルドには帰れないのだ。
もう、このまま帰ろうかな…。
涙が乾いて、レビィの目は少し赤くなっていた。
「風邪ひくぞ」
ふと聴こえた声に顔をあげれば、先ほど自分が罵った恋人がそこにいた。
「ガジル…」
追いかけてきてくれたんだ。
どうせルーちゃんあたりが言ってくれたからだと思うけど。
ガジルはおもむろに、レビィの隣にドカッと腰を下ろす。
そしてまっすぐにレビィの目を見た。
「ガジル…?」
レビィがそう呟いた直後、ガジルの腕がレビィの後頭部に周る。
ギュッと音が鳴るくらい強く抱きしめられて、思わず顔をしかめた。
そんなことを気にしてない様子のガジルは、レビィの頭に自分の顎を乗っけながら口を開く。
「女ってのはめんどくせぇよなぁ」
「…」
「特にお前はピーピー喚くしな」
「…何よ」
「それでも何で俺がお前から離れないかわかるか?」
「…?」
ガジルはレビィの耳元に自分の唇を近づける。
耳にかかる吐息に、少しだけビクつくレビィ。
「好きだ」
それは、ずっとレビィが聞きたかった一言で。
「愛してる」
それは、望んだ以上の一言で。
「好きだ、レビィ」
それは、レビィだけに向けられた一言。
ああ、たった今世界でこの人を独占しているのは私なんだ。
抱きしめられながら、しばらく囁かれる愛の言葉はどうしようもなくどろどろに甘くて。
耳がとろけそうになった。
「…これで、勘弁しろ」
「ガジル…、っ大好き!」
乙女心は複雑だ。
言われすぎたら軽く感じるし、言われないと不安になる。
なんとも厄介で、可愛らしい。
ガジルは、もうしばらく言わないだろうなと考えつつも、今はただ抱きついてくる可愛い恋人を抱きしめ返すことだけに専念するのだった。
→あとがき