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―冬木市

森の中に声が響く。

足音は雪に吸い込まれ彼以外の耳には届かない。


もし誰かがこの場に偶然居合わせたなら、さぞ目を疑う事だろう。


青年が何かを呟きながら黒い液体を撒き散らしているのだから。


否、撒き散らすのとは少し違う、一見不審極まりない行動も青年にはちゃんと意味を成す行為であり、これから行われることの礎となる要でもあるのだ。






―閉じよ

閉じよ

閉じよ

閉じよ

閉じよ

繰り返すつどに五度

ただ満たされる時を破却する

素に大火と鉄

礎に自由と革命の大公

祖には我が大師東の皇帝

狭き世には自由を

東方の路は絶ち

断頭台より出で

王国に至る戦路を満たせよ―








インクに血を混ぜた液体で陣を描いてゆく。

青年は手順を確認し終わると、オカルト臭がぷんぷんする魔導書をパタムと閉じた

―あとは詠唱か


青年の神経を痺れるような高揚と緊張が駆け巡っていく。

―ここから全てが始まるんだ。

小さく息を飲み、詠唱を開始する。






告げる―

汝の身は我が下に

我が命運は汝の剣に

聖杯の寄るべに従い

この意 この理に従うのなら答えよ

誓いを此処に―





青年の体の中の魔力回路を膨大な量の魔力が駆け巡り、それに必ず伴う激痛を感覚の外に押しやって青年は詠唱を続ける。







我は常世総ての善となる者

我は常世総ての悪を敷く者

汝三大の言霊を纏う七天

抑止の輪より来たれ天秤の守り手よ―







空気が唸りをあげて青年を取り巻いた。
インクで描いた方陣がぼんやりと光始める。

それは目が眩む程の光へと変わっていき、青年は反射的に目を細める。
突如光の中に影が現れ、人の形を成してゆく。

影の肩が僅かに上がり、下がる。

暫し噛み締める様な沈黙。

吐息さえ聞き取れる程静まり返った夜の冷え込んだ空気に青年は、高揚感とも、緊張感ともとれる不思議な感覚をうちに渦巻かせていた。

影が小さく口を開き、凛とした声が反響する。

僅かながら青年の口から声が漏れる。

方陣の光が一層増す。

冬木に幾度となく囁かれた契約の言葉。
今夜、三つの契約の時が重なる。






―問おう。貴様が我のマスターか
 

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